アジャイルコーチの備忘録

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問いかける際のたったひとつの冴えたやり方〜『問いかける技術』を読んで感じたこと

NVCにハマっていると言ったら「これもいいかもよ」と先輩に教えられたエドガー・H・シャインの『問いかける技術』を読んだので、感想や感じたことをつらつら書いてみます。

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる

はじめに

コーチという仕事をしていると一方的にアドバイスするのは逆効果であることが多く、「問いかける」方が適切な場面が多い、ということが直感的にわかってきました。
しかし、具体的にどのように質問をすれば良いかがわかりませんでした。

www.slideshare.net

また、コーチングの文脈では質問を「相手の中にありながら、本人がまだ気付いていない答えを引き出し、気付かせること」というように定義されることが多いです。その定義にふれるたびに、共感する一方で、「気付かせる」という表現の中にかすかな傲慢さを感じてしまい胸がざわついていました。*1

引用: コーチングの質問スキル:プロが実践する効果的な質問集 | コーチ塾

そんな中、本書のシンプルだけど確かな「問いかける技術」は、上記のモヤモヤをいっぺんに吹き飛ばすような爽快さをもたらしてくれました。

失敗例

さて、私自身も「問いかける」ことの重要性に気づき、仕事でも見よう見真似でアドバイスではなく問いかけをしてみたのですが、本書を読むまでは、見事に本書でのアンチパターンのような問いかけを数々してしまいました。

自分では質問しているつもりでも、それは単に言葉づかいが変わっただけで、結局は自分の言いたいことを質問の形式に置きかえただけか、あるいは自分が正しいことを確かめるために相手に聞いているにすぎない場合が多い。

問いかける際のたったひとつの冴えたやり方

......と大袈裟に書きましたが、本書にはさまざまなシチュエーションや実際の質問例がいくつも書いてあります。ですが、本書を最後まで読めば、結局ひとつのことしか書いていないことに気づかされます。それは、技術というより姿勢。

すなわち、当書での「問いかける技術」とは、

「謙虚に問いかけること」

という姿勢に尽きるのです。

「謙虚に問いかける」とは、本書の言葉を借りれば「相手に対して興味や好奇心を抱」き「自分が知らないということを積極的に認め」相手に尋ねることです。
ただ、それだけ。

なぜ「謙虚に問いかけること」はむずかしいのか?

「謙虚に問いかける」とは「知らないことを、好奇心を持って、素直に質問すること」と言いかえることができます。しかし、なぜそんな単純なことを実践するのがむずかしいのでしょうか? なぜわざわざ本書は書かれたのか?

それは米国文化(これはアメリカに限らず日本もそうだと思います)は「話す力を過大評価されて」おり、また「リーダーたる者は賢くなければならず、はっきりと方針を決め、価値観を明確に示すべき」とされているため「地位が高くなればなるほど、人に物を尋ねることは難しくなるから」です。

つまり、偉くなればなるほど、自分が知らないことを認め、相手に素直に聞くことがむずかしい文化の中で私たちは育ち、存在するのです。だからこそ「謙虚に問いかける」ことの重要性を認識し、学習する必要があると著者は言います。

なぜ「謙虚に問いかける」ことが必要なのか?

まずは著者の言葉をそのまま引用してみます。

世界は今、目に見えて複雑になり、文化の多様性が増し、人々が互いに依存し合うことによって成り立っている。だからこそ、良好な人間関係を育む適切な質問をすることは、きわめて重要である。相手の考えを聞く、その人と互いに尊重し合う気持ちを大切にする、相手は自分が必要とする知識を持っているであろうことに気づくーー。こうした心がけがなければ、国籍も職業も経歴も異なる相手を理解するこはできないし、ましてや一緒に仕事をしていくことなどかなわない。

現在の複雑な世界に、自分の知っていることだけで立ち向かうのは限界があります。その時その時に必要な知識を持ったメンバーに立場を超えて「謙虚に問いかける」ことができるかどうかは、組織の命運を握るほどの大きなスキルとなるのです。

おわりに

いかがでしたでしょうか?

駆け足で説明してきましたが、本書はこんな単純ではなく、複雑かつニュアンス豊かに「謙虚に問いかけること」が説明されています。マネージャーやアジャイルコーチに限らず「問いかけること」や良好な人間関係や強い組織づくりと言ったテーマに興味があればぜひご一読をおすすめします。

私も本書を読んで、「謙虚に問いかけること」を早速実践するようになりました。

"知らないことを、好奇心を持って、素直に質問すること"

ーーそれこそが最良の質問術であり、「問いかける技術」なのです。

*1:コーチングでの質問をディスるような書き方をしてしまいましたが、これはこれでとても重要であり、今後きちんと学びたいと思います!