アジャイルコーチの備忘録

3歩歩いたら忘れるニワトリアジャイルコーチの備忘録。書評、活動記録など...

2021年に僕がアジャイルコーチとして気をつけたい6つのコト

今回は、今年をふりかえりつつ、「2021年に僕がアジャイルコーチとして気をつけたい6つのコト」を挙げたいと思います。

1. 「It depends(時と場合によるね)」とお茶を濁さない

経験を重ねるほど、企業形態やチームの成熟度やプロダクトの性質など、アジャイルチームが置かれた状況は多種多様であるため、一つの課題に対する万能な解決策がないこと(「銀の弾などない」)をしみじみと実感するようになる。
そのため、クライアントや知人からアジャイルに関する相談される時に「It depends」と言っていた時があった。

「It depends」......何だかカッコいいし、何だか深いことを言っていそうだ。
しかし、そこに問題を解決しようという能動的なパッションはない。

来年は「It depends」とお茶を濁さず、「銀の弾などない」と知りつつ、状況を見極め、状況に応じた最適解を、現場と一緒に考えてもがき続けたい。

2. 「ウォーターフォール」脳を捨てる

よく、アジャイルはプラクティスではなくマインドセットだと言われるが、果たしてアジャイルコーチは完璧にアジャイルマインドセットが身についているのだろうか?
......答えは、ワークショップの運営で見極められます。

かつて僕はワークショップのタイムスケジュールを5分単位で考えてきて、途中でトラブルや計算違いがあっても、最初のスケジュールを必死に守り通そうとしていた。
一方、先輩コーチ陣は最初に計画したタイムスケジュールを臨機応変に変えており、そもそもタイムスケジュールすら無い方もいた。
来年からは、ワークショップに限らず、全てのシーンにおいて、最初の計画を経験から臨機応変に変更できるように心がけたい。

3.「コーチング」だけで乗り切ろうとしない

「答えは相手の中にある」「対話を重ねて一緒に答えを模索する」といったコーチングの姿勢はとてもかっこいいし、有効に思える。
かくいう僕も、一方的に教えるだけのティーチングよりコーチングの方がずっと魅力的に思え、今年は数ヶ月に渡るセミナーも受講した。
そして、新規クライアントに対して「答えは相手の中にある」という姿勢で臨んだ。
......結果は、もちろんボロボロになった。
そもそも、多くの場合、クライアントに従来の開発手法とは異なる思想、価値観、そしてプラクティスを身につけてもらうのがアジャイルコーチに与えられるミッションである。
そんな中、はじめから「答えはあなたの中にある」とコーチング的に問いかけても、従来の価値観に基づく返答がなされ、訂正と軌道修正に追われるだけである。
というわけで最初はティーチングからはじめ、慣れてきたらコーチング的なアプローチを取るのが良いと今は考えている。
(そもそもティーチングとコーチングに優劣はなく、両者とも重要なツールだ)

4. 「チェンジ・エージェント」気取りをやめる

今年はアジャイルコーチにとってクライアント(依頼主)との期待値調整こそ重要なことはないと感じた一年だった。
けれども、クライアントの期待値が曖昧だったり、また、クライアントの意図が現場に伝わっておらずケースも多く、何から支援して良いかわからないケースも多い。
......組織の課題は明白だ。
......有効な手段も分かっている。
そうした中、業を煮やした僕は、つい、クライアントの期待値を明確化する前に「こうしましょう」とチェンジ・エージェント(=組織における変革の仕掛け人)になろうとしたことがあった。
しかし、部外者がチェンジ・エージェントになろうとした代償は大きい。
結果的に「この人が代わりに考えてくれる」とコーチに依存するマインドセットが生まれ、クライアントの協力は得られず、状況が悪化しただけだった。
来年は僕一人で出しゃばらず、クライアントの期待を明確にすることから、支援を始めたい。

5. なるべく「コード」を読む

アジャイル導入においてはプロセスと同じように技術が重要である。
どんなにチームの雰囲気が良くとも、スクラムプロセスが完璧に実施できていても、肝心の設計やコード品質が悪かったり、CI/CD環境が無かったり、十分なテストコードが用意されていないことには砂上の楼閣に等しい。
そうしたチームは、数週間後か数ヶ月後か、スパゲッティコードとの壮絶な闘いに追われ、定期的なリリースどころではなくなってしまう。
そして、上記の問題を検出するには、メンバーからのヒアリングや観察だけでは不十分で、実際にコードを読んでみるしかない。
現場によって言語が異なるため一筋縄ではいかないが、来年はきちんとコードを読むということも意識したい。

6. とにかく「ポジティブ」に居続ける

大企業や従来型企業を支援すると、クライアントから我が社の「深い闇」を打ち明けられることがある。
深い闇が経営層のこともあれば、マネージメントのこともあり、組織体制のこともあり、ビジネスモデルのこともある。大袈裟に言えば、エンタープライズアジャイルとは、そうした「深い闇」との闘いなのだ。
そうした中、クライアントと付き合いが長くなればなるほど、こちらまで相手に共鳴してしまい、「深い闇」が本当の深い闇に、動かしがたい障害に思えることがある。
とはいえ、その闇に飲み込まれ、「ミイラとりがミイラになって」はいけない。
来年は相手に共感しつつも、とにかく一人でポジティブに居続け、相手と一緒に深い闇から脱出する方法を探し続けたい。
そもそも深い闇は見方を変えれば「高い壁」であり、「高ければ高い壁の方が 登った時気持ちいいもんな(Mr.Children)」なのである。

おわりに

今回は、唐突な2020年のふりかえりとして、自分の経験談から学ぶ「2021年に僕がアジャイルコーチとして気をつけたい6つのコト」というエントリを書きました。
本当は、以下を加えてキリよく10ポイントにしたかった、のですが、大晦日のエアコンの掃除が終わっていないため、泣く泣く諦めようと思います(涙)

  • 「自社都合よりクライアント」を優先したい
  • 「固有名詞」を正確に言いたい
  • 「解決策を伝える前に課題」を定義したい
  • 「様々な事例やプラクティス」を学び続けたい

というわけで来年も精進していきたいと思いますける!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

日本企業をビルドトラップの底無し沼から救うために!!(『プロダクトマネジメント』を読んで)

はじめに

  • 「様々な部門にアジャイル開発を広げたいが、開発部門にしかアジャイル開発を導入できない」
  • 「決められたロードマップに従うだけで、スクラムチームにプロダクトに対する決定権がない」

大企業や、従来型企業でスクラムを推進する方々からよく聞く悩みだ。

この状況でも、初めのうちは、チームプレーによる仕事スタイルの転換やふりかえりなど、開発チームに楽しい日々が訪れる。
けれども、残念ながらそんな楽しい日々は長く続かない。
ユーザーや機能の背景が見えないまま、機能リリースを急かされている内に、だんだんと「自分達は檻の中で必死に走り続けるハムスターじゃないか!?」と思えてくるからだ。
そして何より悲惨なのは、誰も使わない機能が、リリースされ続けることにある。

プロダクトビジョンを自分で決めたいと言い続けていますが、許可されていません。マネージャーは私にソリューションを渡し続けます。何か別のことを提案するたびに、拒否されます。スクラムを始めたとき、スクラムチームは自律的であるべきと言われました。現状はまったく自律的ではありません。(『プロダクトマネジメント』より引用)

*1

プロダクトマネジメント』について

今回取り上げる『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』は、この問題の構造と、実際にどのように仕事のやり方を変えるべきかが、極めて明快に示されている本である。

プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける

プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける

  • 作者:Melissa Perri
  • 発売日: 2020/10/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

著者によれば、「はじめに」で触れた問題は、組織がビルドトラップに陥った結果だという。
そしてビルドトラップとは、以下の状況のことだ。

ビルドトラップとは、組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況のことです。実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況です。

ビルドトラップは、軽快な言葉の響きに反して、実際には多くの組織がどっぷりと漬かっている底無し沼のような状況を指す。
そしてそれは最悪の場合、組織全体の崩壊までに追い込む「死に至る病」なのだ。

ビルドトラップに陥る原因

本書で最も印象的だったのは、組織がビルドトラップに陥る原因がこれ以上ないほど明確に描かれていることだ。
著者によれば、組織がビルドトラップに陥る原因は以下のようなものがある。*2

  • マインドセット: 経営層のビジョン、戦略の不在。組織全体のプロダクトリリースの目的化
  • 組織構造: 企画部門とビジネス部門の縦割り化。「ラボ」という名の予算や権限の不十分な譲渡
  • 予算編成: 年次計画に基づき、使い切らなければならない予算
  • 報酬制度: 従業員の成果指標は、リリースした機能数
  • 人材: プロダクトマネージャーのスキルセットの認識やトレーニング不足
  • 文化: 失敗が許されない、「心理的安全性」が低い文化

私の言葉で言い換えれば、要するに、「不確実な顧客に向き合う」よりも、「プロダクトや機能をリリースする」ことに組織の目的を限定させた方が、あらゆる意味で圧倒的に楽なのだ。

前者より後者の方が、組織編成も、マネージメントも、オペレーションのマニュアル化も、人事評価も、圧倒的にやりやすいだけではなく、組織全体として「一生懸命頑張っている」という心理的充足感も得られやすい。
一方、前者は、組織編成やマニュアル化もやりづらいだけではなく、不確実で気まぐれな顧客の声に絶えず向き合う結果、「ある日突然仕事がなくなる」という不安にも晒されやすくなる。

『みんなでアジャイル』に引用されている、心理学者のヴァージニア・サティアの言葉は象徴的だ。

ほとんどの人は、不確実性の悲惨さよりも、不幸の確かさを好む

みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた

みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた

  • 作者:Matt LeMay
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

どう仕事を変えていくべきか

著者は、マーケットリーという架空の会社のコーチングを通して、戦略やビジョンの策定からプロダクトマネージャーの役割の定義、プロダクトマネジメントプロセスの導入に至るまで、どのように組織がビルドトラップから抜け出し「プロダクト主導組織」に変革していくかを本書で丁寧に記述している。
詳しい内容は本書に直接あたっていただくとして、ここでは印象に残ったことと感想を挙げてみたい。

プロダクトマネージャーの役割

本書では「悪いプロダクトマネージャーの典型」として、顧客からの要望をただ聞いて伝えるだけの「ウェイター」、スティーブ・ジョブスよろしく一方的にチームに自分のビジョンを押しつける「ミニCEO」が挙げられている。
どのタイプも一緒に働いたことがあるため、該当の章は苦笑しながら読んでいた。
プロダクトマネジメントは高度に専門的なスキルだが、多くの人にとって学ぶ機会はなく、それゆえトレーニングの必要がある、という著者の主張には、100%共感だ。

プロダクトマネジメントプロセス

本書の素晴らしい所は、顧客への早期検証による学習の重要性や様々な方法が紹介されている一方で、学習をスキップすべきケースも併せて紹介していることだ。

ECサイトの購入ページが良い例です。ほかのEC企業向けにこの機能を売り込むつもりがないなら、ここですべての時間を費やすべきではありません。このソリューションに関してはすでに多くの実験が行われていて、それを活用すればいいのです。

今まで『リーン・スタートアップ』片手にあらゆることを顧客相手に検証したがり、他社製品を「パクる」ことに対して後めたさを覚えるプロダクトマネージャーと数多く出会ってきたが、これからは本書を勧めてみたいと思う。*3

どうやって、経営層やビジネス部門をアジャイル開発に巻き込むか?

さて、「はじめに」の悩みに戻れば、組織がビルドトラップから抜け出すためには、経営層やビジネス部門を巻き込まなければならないのは明白です。
本書では、CTOが問題を認識し、組織の全面的な変革を決意することから始まりますが、実際には、一番難しいのがここではないかと感じています。
どうやって、経営層やビジネス部門をアジャイル開発に巻き込むか?
ここからは、本書で示されるヒントや、私なりの経験則を伝えて、ブログを終わりたいと思います。

「アウトカム(成果)に着目したコミュニケーション」

まず、明日から私たち現場がすぐに出来ることとして、本書の「アウトカムに着目したコミュニケーション」はかなり有効だと感じています。
スプリントレビューをはじめ、あらゆる場面でビジネス部門に、アウトカムに着目したコミュニケーションを仕掛けていくこと。
具体的には、たとえば以下のような質問をしていくのが効果的だと感じます。
「これは本当に顧客が使うのでしょうか?」
「誰を対象とした機能でしょうか?」
「こないだリリースした機能は、どれくらい利用されていますか?」
ビジネス部門の方は(本来は)このような話題に興味があるため、乗っかってくれる確率は高いです。*4

日本の大企業や従来型企業では「役員」を攻める

私は日本企業がビルドトラップに陥る原因の一つとして、ビジネス部門と開発部門の分離が大きいと考えています。
しかし、両部門の部長にいくらビルドトラップを訴えても、与えられたノルマをこなすことに精一杯な彼/彼女らにその声を響かせることは難しい。
攻めるべきは「役員クラス」です。
具体的には、以下のような解決策が考えられます。

  • 仕事で成果を積み重ね、「信頼貯金」を貯める
  • 役員やマネージャーにアジャイル開発のトレーニングを実施する
  • 役員にアポイントメントを取り、現状の問題と解決策をプレゼンする
  • 上記のためにコンサルタントアジャイルコーチを雇う

とはいえ 、「それが出来たら苦労しないよ.....」という声が聞こえてきそうです。
確かに、上記を現場が実行するのは、なかなかは難しいのが現実。

そのため、現時点でのベストな解決策は、役員に本書を読んでもらう事ではないでしょうか。
さぁ......勇気を振り絞って役員に本書を渡してみましょう!!

おわりに

企業がビルドトラップから抜け出すためには、現場だけではなく経営層やマネージャーが本書を読むことが極めて重要だと思います。
それくらい素晴らしい本でした!
日本企業がビルドトラップから抜け出すために、アジャイル開発の効果を最大化するために、是非ご一読してご自分の会社の経営層にも是非オススメしてみてください!

本書を頂いたRyuzeeさん、そして最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

*1:特に断りがなければ、本ブログの引用はすべて『プロダクトマネジメント』から

*2:これは、組織がビルドトラップに陥る原因が無数の網目のように張り巡らせれており、大企業や従来型企業以外のスタートアップ等の企業も、組織拡大等のちょっとしたきっかけであっという間にビルドトラップに陥る事を示している

*3:文脈が違うので一概に比較できないものの、過去のベストプラクティスや資産等の活用は、エンジニアの方が遥かに進んでいると感じている

*4:組織を変えることについては、『Fearless Change』も参照

Fearless Change

Fearless Change

atama plusの大規模スクラム(LeSS)リモートイベント見学レポート【後編】

前回、atama plusの大規模スクラム(LeSS)イベントについて客観的に書きましたが、後編では個人的な感想やご提案をお伝えします。

norihiko-saito-1219.hatenablog.com

ステキ❤️と思ったこと

  • チーム間の積極的な助け合い
  • UXリサーチ結果やユーザーフィードバックの積極的な共有
  • メンバーの課題形成/解決能力の高さ

チーム間の積極的な助け合い

チーム数が多い組織では、チームメンバーの意識がチーム内に閉じ、チーム間の情報共有や連携が薄れる傾向(いわゆる「サイロ化」)がよく見られますが、atama plusでは積極的にチーム間で助け合っていました。

スプリントプランニングでは、大変なプロダクトバックログを担当することになったチームに、「本人達のチームは大丈夫なのか!?」とこちらが心配になる位、他チームのメンバーが積極的にトラベラー*1として他のチームに協力する様子が印象に残りました。

これは、UXリサーチやユーザーフィードバックの共有等の一つ一つの工夫により、メンバーの意識をチームだけではなく絶えず「ユーザーやプロダクト全体」に向かわせている努力の賜物だと感じます。

UXリサーチ結果やユーザーフィードバックの積極的な共有

今回、スクラムイベントだけではなく、atama+のユーザーの一人である塾の運営者へのインタビュー結果を共有するワークショップ(教室長ワークショップ)に参加することができました。
印象的だったのは、単なる共有にとどまらず、「新たに学んだことは何か?」「認識を深められた点は何か?」とチーム全員でインタビュー結果を基にディスカッションしていた事
このように、UXリサーチ結果やユーザーフィードバックを組織全体に対し深いレベルで共有している現場はまだまだ少ないのではと感じました。

メンバーの関心/課題解決能力の高さ

スクラム運営や課題解決をスクラムマスター任せにするチームは多いですが、atama plusでは多くのメンバーがスクラム運営にも関心が高く、イベント中にも「リファインメントに時間が掛かりすぎる」「イベント進行の効率化」等の課題を指摘していました。
事実、見学中にアジャイルコーチとして密かに感じていた課題の大半が、メンバーによってその場で指摘され、他のメンバーから的確な解決策が提示されていました。

(もし)atama plusのスクラムマスターだったらplusしたいこと

最後に、ほんっんとおおおおおに、余計なお世話ですが、もし僕がatama plusのスクラムマスターだったらplusしたいことを書いてレポートを終わりにしたいと思います。

僕がatama plusにplusしたいことは「キャンプファイヤー」(ゆるさ、余裕、遊び)です!

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今まで書いてきた通り、atama plusでは経営、ビジネス部門、開発部門が一丸となって大規模スクラムを真摯に実践し、プロダクトの成長とユーザーに向き合っていました。メンバー1人1人の課題解決能力も極めて高めです。

......ですので、あまり言う事ないのですが強いて気になった点を挙げれば、論理的判断や効率性を優先するあまり、合意形成が浅いままミーティングを終えたと感じられたケースが何度かあったことです(e.g. 時間切れになったオーバーオールレトロスペクティブ。自分たちが話したいことよりも時間の都合から「主催者の意図に沿った意見をまとめる」傾向が見られた教室長ワークショップ等)。

atama plusでは(たぶん)やるべきことや課題が山積しており、またスクラムのタイムボックスの観点からも会議や仕事の効率化の追求は非常に重要です。一方、個人的には経営、ビジネス部門、エンジニア、UXデザイナー、QAに至る多種多様なメンバーが協業する際、些細な認識のズレの積み重ねが、大きな問題に繋がることを経験してきました。

そこで、たまには時間をたっぷり取って、個人個人の深い所に繋がるような交流の機会を作ることが、結果的により強靭な組織に繋がるのではというのが僕の意見です*2

色々書きましたが、そういった理由で、キャンプファイヤーをオススメしました!
いつか、焚き火を囲んで皆さんとゆっくりお話しする機会があれば嬉しいです!

おわりに

今回は前後編でatama plusの大規模スクラム見学レポートを書きました。

アジャイルコーチとして普段支援している大企業の対極にあるatama plusのようなスタートアップをじっくり見学できたのは、貴重な体験であり、本当にありがたい機会でした。
スタートアップというと華やかな印象があるかもしれませんが、僕が見たatama plusのメンバーは「大規模スクラム(LeSS)の学習」「アジェンダの準備」「一つ一つ課題に向き合い丁寧に解決する姿勢」等の地道な事を積み重ねており、その姿勢はエンタープライズアジャイルを目指す僕達も学ぶべき事が多いと感じています。

またスクラムマスターの河口さんによるとatama plusでは、創業当時より、プロダクトディスカバリーとプロダクトデリバリーを組み合わせた「デュアルトラックアジャイル」へ取り組んでおり、今回導入した「LeSS」との組み合わせた新しい開発手法を模索しているとのことです。

note.com

atama plusでは見学も調整できるということなので、大規模スクラムに興味がある方は、是非 kawakin さんにご相談してみてください!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

*1:トラベラーについては、こちらを参照。 less.works

*2:もちろん、こんなこと僕に言われるまでもなく、もう既にいろいろやっていると思いますが!!

atama plusの大規模スクラム(LeSS)リモートイベント見学レポート【前編】

以前から大規模スクラム(LeSS)の書籍を繰り返し読み、コミュニティに参加し...と大規模スクラムの理論を学んできましたが、「理論は素晴らしいけど、現実で上手くいくのだろうか?」とどこかで感じてもいました。

そんな折、認定LeSS実践者研修で知り合い、大規模スクラムを実際に導入したatama plusのスクラムマスター河口さんから、「良ければウチの現場を見学しない?」と言葉を掛けていただき、ようやくこの目で大規模スクラムを見学することができました!

今回は、前編と後編に分けて、見学レポートをお届けします。
前編ではスクラムイベントの流れや、atama plusが独自にplusしている工夫を書いていきます。*1

こんな方にオススメ

  • 大規模スクラム導入を検討されている方
  • リモートでのスクラムイベント運営について知りたい方
  • atama plusのスクラムイベントについて詳しく知りたい方

atama plusと組織構成

atama plusとは中高生向け一人一人に最適な学習カリキュラムをAIが生成する「atama +」というサービスを開発運営する会社です。
「atama+」は開発者、UI/UXデザイナー、QAで構成された5〜6人からなる4チームが大規模スクラムでプロダクトを開発しています。
専任スクラムマスターは2名で、それぞれ2チームずつ担当しています。
詳しくは以下をご参照ください。

speakerdeck.com

大規模スクラムとは?

大規模スクラムとは2〜8チーム向けの大規模アジャイルフレームワークです。
1つのプロダクトバックログを1人のプロダクトオーナーが管理するというスクラムのコンセプトを踏襲しながら、複数チームが連携しながらプロダクトバックログアイテム(以下、PBI)を優先順に実現します。
詳しくは以下をご参照ください。

less.works

見学したスクラムイベント

  • スプリントプランニング
  • 複数チームプロダクトバックログリファイメント(以下、複数チームPBR)
  • オーバーオールレトロスペクティブ
  • レトロスペクティブ
  • デイリースクラム
  • 教室長ワークショップ(「atama +」のユーザーインタビュー結果をチームメンバーに共有するためのワークショップ)

atama plusのスクラムイベントはリモートに移行しており、Zoom、Googleスプレッドシート、Jira、Miro等が利用されていました。

今回は、大規模スクラムでとりわけ特徴的なイベントである、スプリントプランニング、複数チームPBR、オーバーオールレトロスペクティブについて書いてきます。

スプリントプランニング

最初にご紹介するのはスプリントプランニングです。
大規模スクラムでのスプリントプランニングの特徴は、1チームスクラムの流れに加えて、チーム間で調整しながらチームが担当するPBIを決定することです。

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参照:https://less.works/img/framework/sprint-planning.jp.png

スプリントプランニングイベントはZoomで実施され、POおよび全チームメンバーが参加します。
テーマ(プロダクトバックログをまとめるビジネステーマ)はMiro上の付箋で、プロダクトバックログはJiraで管理されていました。

スプリントプランニング第1部の流れ(1h)
  1. テーマと優先順位についてPOが説明
  2. 新しく作成されたPBIの概要/ビジネス背景をPOが説明
  3. 次スプリントで実現したいPBIをPOが説明
  4. 各チームメンバー同士で話し合いながら、チームが担当するPBIを決定
スプリントプランニング第2部の流れ(1h)
  1. チームごとにブレイクアウトルームに分かれ、プランニング第2部を実施(スプリントバックログはMiro上の付箋やJiraのサブタスク等で管理)

複数チームPBR(複数チームプロダクトバックログリファインメント)

大規模スクラムで最も運営が難しいイベントが複数チームPBRかもしれません。
大規模スクラムでは全チームが全てのPBIを担当する可能性があるので、スプリント開始前に全チームが全てのPBIを把握している必要があります。
しかし、全チームの全メンバーが全てのPBIについてリファインメントに参加するのは効率的ではありません。そこで、複数チームPBRではPBIごとにチームから代表者を割り当て、複数のPBIを並行してリファインメントを実施します。

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参照:https://less.works/img/framework/product-backlog-refinement.jp.png

リファインメント前日までに、リーディングチームが仕様の叩き台をGoogleドキュメントにまとめます。当日はドキュメントを共同編集しながらZoom上でリファインメントを実施していました。*2

イベントの流れ(PBIごとにリファイメント30分+チームへの共有10分)
  1. リファインメント対象のプロダクトバックログの全体感をPOが説明
  2. リファインメント対象のPBIのビジネス背景と満足条件(≒受入条件)をPOが説明
  3. PBIごとに、チームから代表者を割り当て(チームのSlackチャネルで議論)
  4. 各チーム代表者がブレイクアウトルームに移りリファインメントを実施
  5. 各チーム代表者がブレイクアウトルームに移りリファインメント結果をチームメンバーに共有
  6. リファイメント対象のPBIが無くなるまで、4と5を繰り返す

(4、5は複数のPBIを並行して実施)

オーバーオールレトロスペクティブ

チームでは解決が難しい、組織的な課題を解決するためのイベントがオーバーオールレトロスペクティブです。

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参照:https://less.works/img/framework/xsprint-review-retrospective.png.pagespeed.ic.4qxk6ndBIS.webp

atama plusではチームのレトロスペクティブで、チームで解決できる課題と組織的な課題を切り分け、組織的課題をオーバーオールレトロスペクティブの議題に追加していました。
また、課題だけではなく、組織に「ただ共有したいこと」をオーバーオールレトロスペクティブの議題に追加するケースもありました。
atama plusではオーバーオールレトロスペクティブは全員が参加するのではなく、参加したい人が参加する形式。オブザーバー参加もOKです。私が見た際には、組織的課題を提起した方が積極的に参加する傾向にありました。
ちなみにatama plus代表の稲田さんもこのイベントは毎回参加されています。

Miroで付箋を利用しながら、Zoom上で議論していました。

イベントの流れ(1h)
  1. 参加者が持ち寄った組織課題を共有する
  2. 参加者の投票により組織課題の優先順位を決定する
  3. 解決策についてタイムボックスに区切り討論する(いわゆる「リーンコーヒー」に近い)

atama plusがplusしている工夫

今回のブログの終わりに、atama plusがスクラム運営に独自にplusしている工夫を一部挙げます。

  • PBI担当決めの効率化のため、各チームが担当したいPBIをスプリント前に事前に表明している(「お気持ち表明」と呼ばれています)
  • スクラムイベント運営コミュニティがあり、スクラムマスター以外のコミュニティメンバーがZoomのブレイクアウトルームの管理などのイベント運営をサポートしている
  • レトロスペクティブやデイリースクラム等のチームのイベントはスクラムマスター以外のメンバーがファシリテートしている
  • レトロスペクティブの最後にメンバー全員でレトロスペクティブ自体のふりかえりを実施し、レトロスペクティブのやり方を毎回改善している
  • チームメンバーが、ビジネス的な事情を鑑みつつも「このPBIは取れない」と調整する機会がある
  • 大規模スクラムの原則を組織に浸透させるために、スクラムマスターがイベントの冒頭で「調整と統合」などのキーワードを繰り返し伝えている

またスクラムマスターの河口さんによるとatama plusでは、創業当時より、プロダクトディスカバリーとプロダクトデリバリーを組み合わせた「デュアルトラックアジャイル」へ取り組んでおり、今回導入した「LeSS」との組み合わせた新しい開発手法を模索しているとのことでした。

note.com

また、atama plusでは見学も調整できるという事なので、大規模スクラムや「デュアルトラックアジャイル」に興味がある方は、是非河口さんにご相談してみてください!

後編では、僭越ながら、atama plusのスクラム運営の強みと弱みについて書く予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

*1:今回のブログは見学時点(2020年8月)のスナップショットです。

*2:ドキュメントの準備が大変で、リーディングチームの負荷が高いことがオーバーオールレトロスペクティブで課題視されていました。

そして父になる......!?

6月5日、第一子が生まれた。

妻は42歳で、僕は36歳だった。

結婚した時点で妻が38歳。
僕を含め、家族の誰もが、子供を授かれることを期待していなかった。

「子供が欲しいか?」と聞かれると、正直あまり深く考えていなかった。
ただ、妻が子供を望んでいたので、僕も欲しいと答えていた。
どのみち、何もイメージができていなかったのです。生まれたその瞬間、ではなく、里帰り出産から妻が帰ってきた7月までは。

ただ、漠然した予感がずっと心の中に鳴り響いていた。

「僕が未成熟なのに、夫婦だけでも手一杯なのに、子育てできるのか?」
「このご時世に子供を産んで、子供を幸せにできるのか?」

この予感は、思いの外、すぐ的中することになる。

今回はこの予感がどう的中し、現在、どう立ち直りつつあるかという事を男性側の視点から書いてゆきたい。

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崩壊の4ステップ

  1. 削られる体力
  2. 削られるメンタル
  3. 低下する仕事のクオリティ
  4. 育児の悩みを相談しづらい男性
1. 削られる体力

まず、正直とても恥ずかしいのですが、共働きにも関わらず、禄に家事をしてこなかったのです。
代わりに毎晩のようにオンライン・アジャイル・コミュニティに参加していた。めっちゃ楽しかった。
ただ、やってきたのは過酷な現実だ。
娘は四六時中、泣き喚いている。
泣き止むには授乳しかない。

流石の僕でもこれは家事をしなければマズい、と気づいた。
そこで慣れないながら、掃除、食事の準備、買物、子供の入浴、ミルクあげ、おむつ替え等をするようになった。
慣れない家事と、育児、そして夜泣きによる睡眠不足で、どんどん体力が削られていった。

2. 削られるメンタル

こちらも情けないのですが、僕は精神的にも妻に完全に依存していた。
具体的にはうまくいかないことや愚痴を逐一妻に吐き出していた。
辛いのは泣いている娘だけじゃない、僕も辛い。
そこで、必死に娘をあやす妻に話しかけてみた。

「ねえねえ、今ちょっと話聞ける?」
「そんな余裕ない! 見てわからない!?」

......当然だ。

そして僕はこう見えてプライドが高く、妻以外にあまり相談できなかった。

3. 低下する仕事のクオリティ

周りの父親はみな子育てをこなしながら、仕事でも易々と成果を挙げているように見える。
また、育児で仕事量が減ったと思われたくなかった。
何しろ少人数のチームだ、周りに迷惑を掛けるのも辛かった。
そこで、バカだったとしか言いようがないけど、普段よりたくさんの仕事を任せて欲しいとチームに掛け合った。
結果、どの仕事も中途半端になり、日に日にクオリティは低下していった。
今までは残業や土日出勤で密かにカバーして何とか取り繕ってきたけど、業務時間外は育児で手一杯だ。今回はその手は使えない。
結果、一人で担当すると宣言したのに、最後にはチームメンバーに様々なサポートをお願いする結果になってしまった。

4. 育児の悩みを相談しづらい男性

「なんでこんなに胸が重苦しいのだろう......」
7月から9月に掛けて、ずっとこんな気分が続いた。
この原因が育児による環境変化と気づいたのは、9月に入ってからだった。
育児に悩む女性の記事やツイートは良く見かけるが、男性の記事はほとんど無い。
そして、隣には、僕より何百倍も苦しむ妻がいる。
「男が弱音を吐いちゃいけない」という風潮に知らず知らずに僕もハマり、相談することすら出来ずにいた。

3ヶ月での気づき

色々と書いてきたが、この3ヶ月で気づいたことを一言でいえば、
「余裕がなければ、育児はできない」
さらにいえば、
「自分が幸せでなければ、人を幸せにできない」
という平凡なことだ。

けれど、皮肉なことに、育児とは参加者の余裕がなくなっていくゲームなのだ。
そんな中で、余裕を確保するために、今取り組んでいることは以下の2点だ。

  1. 周りの人に状況を打ち明け、協力をお願いする
  2. 仕事を効率化する
1. 周りの人に状況を打ち明け、協力をお願いする

どうしようもなくなってから、僕は上司に、同僚に、アジャイル・コミュニティの仲間に、悩みを打ち明けた。
みなさん暖かく、手を差し伸べてくれた。
もちろん、ただ単に仕事を丸投げすることではなく、自分が出来る事を見極め、キッチリやりきることは必要だ。
ただ、今回は上司も同僚も協力をしていただいて、本当にありがたく思っている。
そして、仲間にも本当に助けられた。

2. 仕事を効率化する

そして、余裕を作るために、仕事の効率化を進めたいと思っています。
ここはまだ取り組んでいる最中なので、何か良いアイディアあれば是非教えてください!
僕が10分でも余裕ができれば、その間、娘が抱っこでき、娘にべったりな妻にもわずかに余裕ができる。
結果、こうした方が周りが幸せになる、という事を今は確信している。

最後に「自分が幸せになる」ということについて

様々悩んだ僕がこの3ヶ月で結論したことは、自分が幸せになる、ということは「自分の持っている事を認める」ということに尽きると思った。
よく、水が半分入っているコップを見て「半分も入っている」「半分しか入っていない」というが、そこであくまでも「半分も入ってる、ラッキー!」と言い張るのだ。

  • 水が半分以下になっても、「水が入ってる、ラッキー!」
  • 水が無くなっても、「コップがある、ラッキー!」
  • コップが砕け散っても、「破片が綺麗、ラッキー!」
  • 失敗に成功した!

なので、この先何があっても、心の中で号泣していても「ラッキー!」と言い続けたいと思っています。
娘のために、周りのために、僕自身のために。

今日はバラバラと書いてきました。
拙い経験ですが、父親の方、これからお子さんを出産する方、誰かのお役に立てれば幸いです。
最後までお読み下さり、ありがとうございます!

【イベントレポート】「離れて、共に 市場経済を超えたニーズへの対応」

はじめに

2020年7月25日に開催された、ミキ・カシュタンによる、特別オンラインWS「離れて、共に 市場経済を超えたニーズへの対応」のイベントレポートです。

スピーカーはミキ・カシュタン。
名前だけは知っていたけど、オーガナイザーの安納献さんによれば、日本にNVCを広めることになった源流の一人、そして世界で最も影響力のあるNVCトレーナーの一人とのこと。

今回はミキがコロナ禍で感じた市場経済主義の限界と、それを乗り越える方法を一緒に考えるという趣旨のワークショップでした。

www.facebook.com

スピーチ

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質疑応答

Q. (地域コミュニティで交換する経済は)みんなが交換できるリソース(資源)を持っていることが前提となっているが、個人が細分化され、そのようなリソースを持っていないことが問題では?

全くもって同意します。
最初に政府を頼らなければならないのは、みんなが遠いところにある、大きな組織に頼っているから。
ただ、みんながどこにいようと、それを始めて欲しい。
たとえば、車から始められるかもしれない(→カーシェアリング)。
一つのストーリーをシェアさせて欲しい。
ソ連崩壊時、キューバへの贅沢品ではなく、日用必需品の輸入も途絶えた。
当時、急に自給自足にならないといけなかった。
今でもキューバの食料品の半分は、首都ハバナで生産されている。
環境が制限されると、私たちはよりクリエイティブになる。
今のこの時期は、創造性を引き出すのに良い時期。

Q. ミキさんの話の背景には、社会契約があるのでは? 日本は天皇制で2000年いったので、オルタナティブを探しづらい。ミキさんの社会契約という考え方が、簡単にしてるのでは?

私は日本の歴史にほとんど詳しくないので、想像で答えます。
天皇制の遥か前に、何かがあって、いのちから離れていった。
全ての文化の太古の知恵は、日本でも同じだと思う。
どこかの時点で、いのちを信頼するところから離れていった。
いのちから離れていたら、恐れに入った。
恐れに入ったら、どれだけ必要かどうかがわからなくなる。
恐れの中では、実際に必要な分量が分からなくなる。

自然の豊かさの代わりに、そこに生まれるのは2つの悪。
1. 製造された欠乏
2. 恐れ

恐れが起ると、争いが起こる
そこでは国家を作るのがとても魅力的になる

国家の機能は、暴力をコントロールすること。
1. これは正当化された暴力、正当化されてない暴力と区分ける
2. 国家は市場を生み出す。税金を生み出すためのお金を産むのに役に立つから

みなさんが乗り越えなきゃいけない権力への恐れは2層ある。
1. 天皇、もしくはてっぺんにいる強い男性への恐れ
2. グループ全体が持つ、同調圧力、グループが持っている権威

日本文化の強みは、全体を考えること、それは有利にも使える。

Q. 私たちは結局、プラスチック産業などは必要なのではないか?

エネルギー、石油、はそう長く持たない。
私たちはあまりにも利便性に慣れ親しんでいて、それ抜きでどう生活したら良いかのイマジネーションを失っている。
私たちは死と向き合う必要がある。
私たちを殺そうとするものをコントロールしようとするとそこには、より多くの死が集まります。
近代の文化は死を失敗と捉えている。
私は自然の命の一環として見ている。
この惑星の資源の範囲内で暮らし、消費を減らし、もう二度と合わない人の面倒を見る。

Q. ミキがこのワークショップで一番伝えたかったことは何か?

交換(exchange)は、利己主義に基づいている。
流れ(flow)は、寛大さに基づいている

私は、人間のみならず、全ての命を大切にするあり方がみたい。

人間のみならず。

(もう一問とても興味深い問いがあったのですが、ちょうど飲み物を取りにいってて聞けなかったので割愛)

感想

オーガナイザーの安納献さんがこのワークショップを開催した理由の一つとして、「ミキみたいな人がこの星にいて、こんなすごいことを言っている人がいるよと伝えたい」と言っていましたが、まず私が強く感じたのもミキの圧倒的な存在感でした。
ミキは、自分の人生すべてを目的のために捧げよう。と思い、目的に添わないことはやらない人で、このワークショップもミキに断られ続け、数年掛かりでようやく実現したとのこと。
まずはそんなミキ・カシュタンの存在と生き方に衝撃を受けました。
そして、衝撃を受けたのはミキ自身だけではなく話の内容にもです。
話は国家誕生前の数万年の規模に及び、資本主義など既存のイデオロギーに染まっている自分にはまだ消化に時間がかかると感じました。正直最初は「お花畑」ではないかと感じていましたが、質疑応答やミキのブログを読むと、これはお花畑ではなく、地に足がついた思想に支えられた社会変革運動だと思い直していきました。

thefearlessheart.org

それに......市場に委ねるのではなく、政府に頼るのでもなく、地域コミュニティで必要な分だけを与え合う社会。それは決して夢物語ではなく、すでに、社会のあちこちで芽吹き、このコロナ禍で加速しているようにも感じています。

今回、ミキは理想という種をみんなに植えたかったのだと思います。

もちろん理想を実現するのには多くの障害がありますが、種を植えられた私たちは、明日から少しだけ行動が変わるような気がしています。そしてその小さな行動の積み重ねが、大きく社会を変えていくのではないでしょうか。
私も今日からできることを探そうと思ったワークショップでした。

さいごに

今回はミキ・カシュタンの特別WS「離れて、共に 市場経済を超えたニーズへの対応」のイベントレポートを書きました。
イベントに参加できなかった方が少しでもイベントの雰囲気が感じる助けになれば嬉しく思います!
そして、想像より遥かに大変なイベントを企画、実現してくださった運営チームの安納 献、鈴木 重子、石川 咲子、石川 世太の皆様、ありがとうございました!

新人スクラムマスターやアジャイルコーチ必読!?『アジャイルコーチヒッチハイク・ガイド』【現在無料】

はじめに

今回は、アジャイルコーチに限らず、スクラムマスターやエンジニアリングマネージャーにも是非オススメしたい『The Hitchhiker's Guide to Agile Coaching(アジャイルコーチヒッチハイク・ガイド)』という本をご紹介します。*1
現在(2020年07月23日)、今なら無料で以下よりダウンロードできます。

www.agile42.com

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私は様々なエンタープライズ企業でアジャイル導入支援をしています。
この一年、様々なアジャイル関連書籍を読んだ中で、どの本も素晴らしいと感じる一方、仕事で感じているモヤモヤや困り事に対応していない、というもどかしさを感じていました。

今、ようやく探していた一冊に辿り着けたような気がしています。

てわけで前置きが長くなりましたが、なぜ本書をオススメしたいのかと、本書で紹介されているテクニックの一部をご紹介していきます。

本書をオススメする理由

本書をオススメするのは、あまり語られることがない、アジャイルを定着させるためのコーチングスキルについて実践的なテクニックやフレームワークが豊富に紹介されているためです。

Agile thinking and agile practices are easier to learn than coaching skills. There are agile books, Scrum training, workshops, conferences, communities and a lot more available, however for many people the main problem is, in fact, the unlearning of old thinking patterns.

アジャイル思考やプラクティスはコーチングスキルよりも簡単に学べます。アジャイル関連書籍、スクラムレーニング、ワークショップ、カンファレンス、コミュニティ、その他多くのものがあります。

前書きに、アジャイル関連書籍は「仕事で感じているモヤモヤや困り事に答えていない」と書きましたが、それもそのはず。

  1. アジャイルマインドやプラクティスのスキル
  2. アジャイルを定着させるためのコーチングスキル

1と2は異なるスキルなのにも関わらず、私が1の本に2の情報に求めていたからなのです。
そして、1に関する情報はあふれていますが、2に関する情報はまだまだ多くありません。*2

They have started out as new agile coaches with reasonably good agile knowledge, but do not know enough about coaching. If you belong to this group, this book is for you.

彼らは、合理的で優れたアジャイルナレッジを持ちながらも、コーチングについて十分な知識を持っていない新人アジャイルコーチとしてスタートしました。
もしあなたがこのグループに属しているなら、この本はあなたのためのものです。

まさに私がそうでした。

全くコーチングスキルがないままこの世界に飛び込んだ私が取れた唯一の選択肢は、「狂信者」になることでした。つまり、現場で、アジャイルマニフェストスクラムガイドを掲げて「スクラムではこうしてください!」「それはアジャイルマニフェストと違います!」と叫んでいたのです。

結果、変わらないどころか、悪化する現実......

なぜなら、

however for many people the main problem is, in fact, the unlearning of old thinking patterns.

しかし多くの人にとっての主な問題は、結局のところ、古い思考のアンラーニングです。

多くの企業にとってアジャイル導入時の主要な問題は「古い思考のアンラーニング」だからです。
経験的にも、古い思考をアンラーニングしながら新しい思考をインストールするためには、アジャイルに関するスキルと同じ位、優れたコーチングスキルが必要になります。本書は、そのための本なのです。

個人やチームにどう問いかけるべきか?

ここからは本書で紹介されているテクニックのごく一部をご紹介します。

ナラティブ・クエッショニング

どのように個人やチームに質問を投げかけるか? は、私のようなコーチング初心者にとってとりわけ難しいテーマの一つです。
そんな中、本書で紹介されている北欧の家族療法の理論家カール・トム(Tomm, K.)のナラティヴ・クエッショニングが参考になりました。トムは4つの質問を意識して質問することが重要だと言います。

1. リニア・クエッション(刑事の質問)
 直線的因果律の構え・探索的意図
 (いつ、何処で、誰が、何を)
2. サーキュラー・クエッション(探検隊の質問)
 円環的因果律の構え・探索的意図
 (一体全体どうなってるんだろう)
3. ストラテジック・クエッション(教師の質問)
 直線的因果律の構え・戦略的意図
 (正しく導くための質問)
4. リフレクシブ・クエッション(ファシリテーターの質問)
 円環的因果律の構え・戦略的意図
 (新しい物語へのきっかけを作る質問)

http://www.jahbs.info/TB2017/TB2017%202-6.pdf より引用

たとえば、プロダクトオーナーが複数いる現場を、一人のプロダクトオーナーに導きたいとします。

以前の自分は以下のようなストラテジック・クエッションをふりかざし、教師のように振舞うのが精一杯でした。

  • スクラムガイド にはプロダクトオーナーが何人と書かれていますか?
  • 本来は何人が望ましいですか?

しかし、ストラテジック・クエッションだけでは現実は動きません。
現実を動かすためには、以下のようなリニア・クエッションで刑事のように、事実を確認する必要があり、

  • いつからプロダクトオーナーが複数人になりましたか?
  • 複数人のプロダクトオーナーは具体的に何をしてますか?

以下のようなサーキュラー・クエスチョン文化人類学者のように、組織や人がどのような世界観と構造を持っているかを確認する必要があり、

  • なぜプロダクトオーナーが複数人になったのでしょうか?
  • プロダクトオーナーが複数人いることで何か課題はありますか?

そして、以下のようなリフレクシブ・クエッションファシリテーターとして、相手の世界観を尊重しながら、アジャイルとしても適切な地点に着地させる必要があります。

  • プロダクトに一番詳しいあなたが、開発チームとモブでプロダクトバックログアイテムを作ることで知識をシェアしていくのはどうでしょうか?

経験豊富なコーチやコンサルタントを観察すると、この質問の使い分けを上手にしていることに驚かされます。

ブリッジクエスチョン

アジャイルコーチは個人だけではなく、チームに対しても質問しなければなりません。
本書が素晴らしいのは個人に対してだけではなく、チームに対する問いかけのテクニックやフレームワークも豊富に紹介されていることです。
たとえば、メンバーの態度、経験、意見、提案の間の架け橋となり、チームの共通理解を築くためのブリッジクエスチョン(bridging questions)は、発言するメンバーの意見が偏っている場合や、形成期のチームに有効だと感じています。

  • ブリッジクエスチョンの例

“What similarities do you see in what different people are saying here?”
“In what way do the things Paul is speaking about link to your interest in the subject? What can you add to this?”
“In what way are you inspired when you hear the others discuss the subject?”
“Is there something you feel that the others have forgotten in their discussion?”
“In which way can you see that your thoughts are aligned with other people’s opinions? In which way do your thoughts differ from the others’ opinions?”


"異なる人々がここで述べていることにどのような類似点がありますか?"
"パウロが話していることは、どのようにしてあなたの興味と結びついているのでしょうか? あなたはこれに何を加えることができますか?
"他の人たちがこのテーマについて話しているのを聞いて、あなたはどのような点で感銘を受けましたか?"
"他の人たちが議論する中で、何か忘れていると感じることはありますか?"
"自分の考えが他の人の意見とどのように一致していると思いますか?自分の考えと相手の意見はどのように違いますか?"

おわりに

今回は、『The Hitchhiker's Guide to Agile Coaching』をご紹介しました。

もちろん本書では「ナラティブ・クエッショニング」や「ブリッジクエスチョン」などの質問についてだけではなく、傾聴やシステムコーチやスポーツコーチとアジャイルコーチの違い、各スクラムイベントでのチェックポイント、5Dモデル、チームの成長モデル等、明日から役に立ちそうな様々なテクニックやモデルが取り上げられています。

Agile coaching is not magical handwaving. It is a soft but very very structured skill.

アジャイルコーチングは、魔法の手振りではありません。
ソフトではありますが、非常に、非常に構造化されたスキルです。

本書は、アジャイル推進者のための本に見えて、実はアジャイルではなくても有用な本です。
私のようにアジャイル推進で苦戦している方だけではなく、組織に新しいことをもたらそうと苦戦している方が一人でも多く本書を知るきっかけになればと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

*1:引用は全て『The Hitchhiker's Guide to Agile Coaching』からの筆者の仮訳です。

*2:もちろん『アジャイルコーチング』や『Coaching Agile Teams』など素晴らしい書籍がありますが、本書はコンパクトながらとても充実した内容でした。また、以下の本を読むのが楽しみです! www.amazon.co.jp