何かを変えようと思ったら、まずは人の話を聞きまくれ - 『アジャイルコーチからのアドバイス』
9月21日のXP祭り2019で購入した『アジャイルコーチからのアドバイス』を読みました。とても薄い本(ページ数数え忘れた)に関わらず、というかだからこそ短い言葉の中に貴重なアドバイスが詰まった本でした。(本を読んだり、お会いして話を聞いたりして思ったのはアジャイルコーチは短い中でエッセンスを伝えるのが上手い、ということ(→短い時間で成果を上げなければならないという職業柄だろうか...))また、開発者/実践者だけではなく、アジャイルコーチへのアドバイスも多く、普段口数が少ない先輩が飲み会でめちゃくちゃ良いことを言ってる瞬間に立ち会う感覚を覚えました。
■本の概要
みなさん、こんな不安や悩みを持ったことはありませんか?・自分のマインドは、アジャイルで役立つ考え方なの?
・スクラムイベントができたら、いいアジャイルチームなの?
・アジャイル開発宣言って、具体的にどんなことをしたらいいの?本書では、レジェンドから今活躍中の方まで、アジャイル支援のプロフェッショナルな方々からのアドバイスを集めました。
基本的なマインドや、具体的なテクニックなど、幅広くアジャイルコーチからの思いが書かれた1冊になります。
まずはとにかく人の話を聞いて、聞いて、聞きまくれ
アジャイルコーチやスクラムマスター、もしくは組織を変える役割を担うことになった人がまずはじめに何をすべきか?
みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?
- チームビルディングのためのワークショップを開催する
- 関係者を集め、説明会をする
- 自分の想いを熱くプレゼンする
- 興味のある方を対象に、勉強会を開催する
- (権限をもった)キーパーソンにアクセスする
色々考えられますが、これについては全執筆者13人中4人が以下のように語っています。
「まずはとにかく人の話を聞いて、聞いて、聞きまくれ」
この本で一番多人数から語られているアドバイスであり、自分も一番印象に残ったアドバイスです。
環境や立場が違えばいろんなことが違ってくるはずなのに、当事者になるとそのことを忘れてしまいがちです。たとえば、過去にうまくいった経験があると、次もまたうまくいくと思ってしまいます。
いずれにしても、何かを変えようと思うのならば、自分から積極的に質問して、周囲の声を集めることが成功の近道です。(角 征典 「「この分野は素人なのですが」から始めよ」)
多くの組織やチームを見る中で、いわゆる「あるある」という共通の問題パターンを見つけ、それに対して共通の処方箋を出すことに慣れがちになってきたため(それはそれで効率化という観点では悪いことばかりではないのでしょうが)、「環境や立場が違えばいろんなことが違ってくるはずなのに」という言葉は当事者だけではなく外部コーチである自分も常に意識しておく必要があると思いました。
ということで、何をしたらよいかというと、何かを提案するまえに、相手の要望をひたすらかき集めましょう。
(川鯉 光起 「提案を拒否させてしまう「ソリューション提案」」)
しかし、現場のメンバーが何に問題を持っているのか、彼らの話を聞き終えていないうちに知識や経験がある人がアドバイスするのは危険です。
(中略)
注意としてはあくまでも相手の言葉を拾うこと。聞き手の解釈でまとめてしまったり、聞きたいことを質問ぜめにしてしまうと話を聞いてくれていないように感じてしまいます。(尾澤 愛実 「チームメンバーの本音を集めた後にカイゼンしていこう」)
ここで印象に残ったのは「注意としてはあくまでも相手の言葉を拾うこと」。これは大先輩のコンサルタントからも口酸っぱく注意されていることです。
たとえば「上司が怖くて発言ができない...」という発言を聞いたら、「なるほど心理的安全性がないということですね?」と解釈して答えると相手は話を聞いていないと心を閉ざすだけではなく、肝心な所で相手に対する理解を誤ります。今はヒアリングやコーチングの際は相手の言葉をそのまま繰り返すということを徹底しています。
アジャイル支援を求められたら、そもそもアジャイルを導入したいという考えに至った経緯、その目的を聞こう。
相手の問題について、よく聞こう。そして、それに「感情で」同意しよう。できるかぎり、相手に共感することからはじめよう。それによって、相手がこの人には話しても良い、この人は支援してくれる、という心の最初の扉を開くことができる。相手の文脈の理解と共感なしに、こちらの「知識」を伝えることは害になることも多い。
「スクラムではこうです。この本にこんなことが書いてあります。」という知識は伝えることができても、それが相手にとって本当によい解決策になっているとは限らない。(平鍋 健児 「アジャイル支援者は「自分ごと」の気持ちであたろう」)
こちらも相手の問題をよく聞くことを徹底していますが、さらに印象的なのは「そして、それに「感情で」同意しよう」との一節。
大好きな本『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』にも「人間は合理的な生き物であり、決定はすべて論理的に行われている、と思いたい。しかし、現実にはほとんどの場合、まず感情で決定し、証拠を用いて決定を正当化するものだ」とあるように、人間は感情の生き物なのだ。
経験的に言うと、感情に「同意」することがむずかしくとも、意見の背後にある感情を想像してみるだけでもぐっと相手からの信頼性は増すはず。
自分も筆者たちと同意見で、物事を変えたり、コーチングをする際はまず相手の話を聞きまくることが成功への近道と感じる今日この頃です。
あえてクールに言い換えると「相手の話を十分に聞いてあげることで、こちらの話を聞いてもらえる可能性が高まる」のです。
アジャイルコーチもコードを書こう
「コードを書かなくても、アジャイルコーチは務まる」
「アジャイルコーチは、コードを書く必要はない」
いつの頃からでしょうか、日本のソフトウェア開発業界でそのような言説・風潮が生まれ、現在その傾向がますます強まっているように見受けられます。(伊藤 宏幸 「アジャイルコーチもコードを書こう」)
から始まるLINEの伊藤氏のエッセイが、コーディングから遠ざかり気味の自分にとって一番胸に刺さったエッセイでした。
一方で、一時のワークショップやトレーニングだけに満足してしまい、プロダクト開発チームの自律的な成長までに関与しないアジャイルコーチも、確実に目に付くようになりました。
私自身が今日まで6年ほどアジャイルコーチとして活動し続けて理解したことは、コードを書かないと、プロダクト開発チームからの信頼は得られないということです。
ですよねー。
...落ち着いたら、コードを書こうとあらためて心に誓いました。
その他心に残った名言たち
どんなにワーキングアグリーメントでチームの約束事が明瞭になっても、スプリントバックログで優先順が明瞭になっても、...テストコード&製品コードが魑魅魍魎であるなら、チームはソースコードの暗号読解だけで疲弊し、対話も成立せず、だんだんと市場に適応する能力が失われてしまいます。
(家永 英治 「リファクタリングの練習をしよう」)
朝会の良し足を評価するとしたらどのような指標を用いるべきだろうか? 筆者は、朝会で挙がった問題の数を指標とするのを進める。
(天野 勝 「チームがチームをチームのために評価する」)
プロダクトオーナーや経営に携わる人たちは右肩上がりの売上を達成しつづけるという強烈なプレッシャーを受けています。
サービス残業、休日出勤、未消化の有休消化、予定していた休暇を取り消すといったことです。プロダクトに力を尽くしているようで、持続的な情熱を前借りしています。
(森 雄哉 「“余力”を生み出せ!」)
意識決定プロセスの途中の人を尊重しつつも、最終的に意思決定できる、あるいは意思決定を確実なものにできる人と直接会話できないか探ってみてください。直接話せれば、許可や承認がその場でもらえなかったとしても、足りない部分を指摘してもらうことはできます。あなたは真面目に仕事をやろうとしているのです。遠慮はサボりです。
落ち着いて自信に満ちた態度は、相手の不安を和らげます。
(高橋 一貴 「アジャイル開発の輪を広げる」)