アジャイルコーチが見た、上司を説得するための5つのポイント
昨日、「ほめる」ことについてウダウダ書いてた挙句次第に気に入らなくなりボツにしてしまったので、今回は連続Tweetみたいなノリで、これまでのスクラムマスターやアジャイルコーチの経験を通じて、組織を変えるためのポイントを書いてみたい。
今回は、組織を変えるために避けて通れない「上司(や他部門やステークホルダー)」を説得する際に普段心掛けている極私的ポイントをまとめました。
1. 相手の言葉を使う
あるUXデザイナーが、エンジニアとの合同ミーティングを開催した際の経験をシェアします。
私を含むエンジニアはUXデザイナーの提案に懐疑的で、会議も重苦しい雰囲気に包まれていましたが、そのUXデザイナーが、
「それってドメイン駆動設計におけるユビキタス言語みたいなものですよね」
と普段エンジニアが会話している用語を使ったことから、「お、この人分かってんじゃん」という空気が流れ、一気に場の雰囲気が打ち解けてエンジニア全員が彼に耳を傾けていきました。
その時分かったことは、相手に提案を聞いてもらうためには、「この人は自分のことをわかっている」と思わせる必要があり、「相手の言葉を使う」ことはそのための有効な手段だということ。
アジャイルやスクラムを推進する際、私たちはついスクラム用語で話しがちになりますが、それは「私たちが所属する言語圏の言語」です。まずは「相手が所属する言語圏」を見極めましょう。事業責任者をプロダクトオーナーなどと勝手に翻訳することには注意です。
- 相手の言語を観察/傾聴する
- その言語をそのままコピーする
- 書籍などを読み、相手の言語をより理解する(対セールス部門だったらセールスの、対マネージメント部門だったらマネージメントの)
2. 行動の背後にある"意図"に注目する
私たちは、上司やマネージャーの提案を見て、しばしば「間違っている、ついていけない」と思う。
ただ現在、様々な組織を経験して思うのは、上司やマネージャーが間違うのは、意図ではなく、意図を実現するための戦略(手段)であることがほとんどだということ。そして従来型組織の上司やマネージャーは意図を伝えることが苦手な方が多いことがこの悲劇に拍車を掛けます。
多くの組織で悲劇は、以下のように起こります。
- メンバーに自律的に働いて欲しい → 「よし、そうできるように精一杯アドバイスをしよう」
- もっと効率を上げたい → 「よし、全員に仕事を詰め込もう」
- もっと規律を高めたい → 「よし、チャラチャラしている付箋は禁止しよう」
なので私たちは、上記のような提案を聞いても、即座に否定するのではなく、その背後にある意図を汲むことが重要となります。大変なのは、表面に現れるものから暗号のように意図を読み解く必要があることです(上司に限らず私たちだって「愛している」と伝えたくて、相手を「なんて自分勝手な人なんだ!」と怒鳴ったりする)。
経験上、抵抗派の上司もアジャイル開発の推進メンバーも、「メンバーに自律的に働いて欲しい」「もっと効率を上げたい」「もっと規律を高めたい」というような共通の意図を持っている事が多いのです。もちろん従来型開発とアジャイル開発では、たとえば効率という観点でも、リソース効率やフロー効率というように採用する戦略は正反対になりますが。
即座に相手を否定せず、相手の意図を理解し、それを満たすような手段という形で提案すれば、上司やマネージャーに受け入れられる可能性が高まります。もしかした苦手な相手とも、意外と自分と重なる意図を持っているかもしれません。
3. 小さくはじめて信頼貯金を貯める
これも多くの方が言っている事ですが、結局の所、上司や他部門に、自分の提案を通すためには「実績を上げて信頼を勝ち取る」しかありません。これは社内のスクラムマスターでも社外のアジャイルコーチでも同じです。そして初めから大きな実績を上げることは困難なので、なるべく小さな成功体験を積み重ねて信頼貯金を貯めることが重要になります。
ただし、小さな成功体験にもリスクがあります。それは周囲が「もう十分達成した」と思い込んでカイゼンをやめてしまうこと。なので、小さな成功体験をある程度重ねたら、どこかでギアチェンジをして変化を加速させると良いと思います。
焦ることはありません。
私が見る所、信頼貯金には複利がつきます。
ただし、失うのも一瞬ですが......
4. あなたの力を意識する
さて、これまで上司や他部門に説得することをテーマに話していましたが、そもそも自分は提案できる立場ではない、役職上の権力がないから組織なんか変えられっこない、という人もいるかと思います。
というか、ぶっちゃけ、それは私です。
私は10年間以上、ある孫請けSIerで平社員としてWebエンジニアをしていました。会社は上意下達のカルチャーであり、そこでは上司が絶対でした。
意思決定とは絶対的な権力を持った上司するもので、部下はそれに従うものだとずっと思ってきました。
私は、役職的な権力だけを力と勘違いし、「孫会社だから、平社員だから、派遣だから何もできない」と無力感をずっと抱えて生きてきました。しかし、心理学者のJ.R.P.FrenchとB.Ravenは「人々がリーダーの要求に応え、命令や指示に従う根拠は、①強制的パワー、②報酬的パワー、③合法的(地位・役職)パワー、④人間的(好感)パワー、⑤情報的パワー、⑥専門的パワー」と言っているそうです。
つまり、人を説得し、組織を変えるのに必ずしも地位や役職は必須ではないのです。
さらに言えば、あなたはあなたの影響力で、既に組織を変化させ続けています。
組織においては全ての関係性は連続的につながっています、
先程のバタフライエフェクトの例のように、あなたが隣人に小さくとも影響を与えることで組織は少しづつ変化しています。
普段は意識出来ていないかもしれませんが、貴方は毎日組織で何かアクションをするたびに関係性に影響を与え変化させているのです。
先輩アジャイルコーチは「上司を変えることはできないが、上司に働きかけることはいつでもできる」とよく現場で伝えています。
あなたの力を意識し、信じて、遠慮なく上司に働きかけていきましょう。
5. 説得しない(人は変えられないことを知る)
大学時代、授業中に「告白は必ず失敗する」と言った教授がいました。
理由を訊ねると、「本当にお互いが好きだったらわざわざ告白という不自然な儀式をしなくても自然に付き合っているはずだ、相手が好きではないから告白をするのだ」との答えが返ってきて、なぜだか不思議と記憶に残っています。
人を説得することは告白と似ています。
これまで人を説得することについて語ってきましたが、不思議なもので、頑張って人を説得しようとすればするほど、相手はそこにコントロールの意図を感じ取り、拒絶を強めます。逆説的ですが、他人は変えられないことを認識してはじめて、他人が変わる可能性が開けるのです。
人に説得する前に、まずはあなた自身が変わりましょう。
そのためには「XPを広めるためにはどうしていけばいいか」という質問に対するケント・ベックの回答が参考になります。
「XPを広めるにはどうしていけばいいか」という質問に対しては,Beck氏は「まずは努力して自分を変える」ことだと答えた。「自分が変わることによって,立ち居振る舞いや行動がどう変わったかを人に見せる。その変化がどれだけプラスの方向に働いているかを証明する。自分がよい方向に変われば,対人関係もよくなる。そこから信頼が生まれる。そこまでいけば,まわりは『自分も変わってみようか』と思う」(同氏)。「相手を説得しよう,相手が言うことを覆して自分が言うことを納得させよう」という態度では決して伝わらないのである。「まわりの人間のどこが悪い,ここが悪いという点に注目するのではなく,ポジティブな方向性でよりよくものごとを変えていく」という心構えが必要だという。
おわりに
今回は、組織を変えるために避けて通れない「上司(や他部門やステークホルダー)」を説得する際の普段心掛けている極私的ポイントをまとめてみました。
はじめは連続Tweetのノリで書こうと思いましたが、意外と分量が多くなって反省しています。
上司や組織との関係は以下のようにまだまだ語りたいトピックが多いため、また機会を見つけて話したいと思います。
- "事実"と"意見"を分けて話す
- それでもダメだったらとっとと逃げ出す
もちろん、これは私の経験によるもので、あなたの組織に適用できるかどうかはわかりません。
ですが、一つでも使えそうなアイディアがあればとても嬉しく思います!
最後までお読みいただきありがとうございました!