チームは問題解決を見てはいけない、夢と理想を見る
はじめに
この記事は森さんの素晴らしいブログに触発され、(私は行けなかったのですが)Agile Talks vol.1のセッションで話題に上がった「チームは問題解決を見てはいけない」という命題について私なりに向き合った考察です。
この問いには正解はなく、その人それぞれの答えがあるはずで、そもそも「この考えが間違っている」と考える人もいるでしょう。しかし、非常にいい命題だと思いますので、この場で提起し、アジャイルコーチ・スクラムマスターとしての思考を深めるために皆さんに使っていただければと考えています。
とあるアジャイルコミュニティにてのやりとり
まずはイントロとして、とあるアジャイルコミュニティで「認定スクラムマスター資格を取得したものの、スクラムマスターでない私がどう資格を活かせば良いか?」ということに悩むAさんと私のやりとりです。
私「Aさんはどんな風に資格を活かせると思いますか?」
Aさん「私は下っ端なので、チームのレトロスペクティブのファシリテーションに活かすくらいしかイメージできません」
私「では、あなたがもし権力があり、何をやってもいい立場ならどうしますか?」
Aさん「経営層にアジャイルを浸透させたいです」
私「では、それを踏まえ、今のあなたがそれに向かってできることは何かありますか?」
Aさん「上司に相談する、かな」
問題解決を見ることのデメリット
さて、森さんのブログには以下とあります。
問題にフォーカスすることは悪いことではありませんが、「問題のみ」にフォーカスすることはよい状態ではありません。
今回はさらに、「「問題にフォーカスすること」に問題はないか?」について考えを推しすすめていきます。もちろん「問題にフォーカスすること」はアジャイルの根幹の一つだと思いますし、日々のカイゼンを繰り返すためにはとても有効な考え方です。しかし、経験上、問題も多い考え方です。
「問題にフォーカスすること」の問題
マイナスを0にするだけ
問題にフォーカスすることは、長所を伸ばすのではなく欠点を直す、つまりマイナスを0にするだけに終わりがちです。いわばモグラ叩き。個人もチームも欠点を直しただけでは平均的な存在になれても偉大になることはできません。欠点を直す以上に大切なことは長所を伸ばすことではないでしょうか。さらに欠点はしばしば長所の裏返しなので欠点をやみくもに直すことは長所をなくすことにもつながりかねません。
「問題解決」の根底にある受動性
問題への対策(Try)が、どんなに合理的で納得いくものであってもいつの間にか「やらなくてはならない」という重荷になり、結果やらず仕舞いになるケースを多く観察してきました。スプリント中に対策を実施する時間がないという理由も多いですが、さらに大きな理由は発生した問題に対応するという「問題解決」という行為の根本的な受動性にあるのではないかと考えています。たとえ、ふりかえりがどんなに盛り上がり自ら選んだ対策であっても、多くの場合、チームにとって発生した問題への対応は義務であり、「心からやりたい」という積極的なタスクになりづらいのです。
モチベーションの減退
さらに問題にフォーカスすることの問題点は、問題を見ただけで気分が萎え、モチベーションが減退することです。たとえば、以下はチームビルディング上の問題のサンプルリストですが、見ただけで気分が萎えてしまわないでしょうか?
- 陰口が多いなどの、部署内の雰囲気の悪さ
- 責任のなすりつけ合い
- ほかのメンバーが何をしているのかわからない
- 問題点が共有できていない
「自分たちで対応できる問題だけを選んでしまう」問題
ここからは「問題にフォーカスすること」の問題ではありませんが、今までさまざまなチームを観察してきて、チームで解決可能な枠内で問題設定をするチームが多いことも問題だと考えるようになりました。
これは組織上力がなかったり、パートナー中心に構成されるチームにありがちな事象ですが「自分たちではどうすることもできないさまざまな問題を深く諦めながら、自分たちで対応できる問題に一生懸命対応する」というマインドセットに陥るチームをよく見かけます。もちろん、これは一見現実的に見えますが、しばらくすると部分的なカイゼンは進み、チームの雰囲気は良いもののプロジェクトが深い停滞感に包まれることになります。
なぜこうなるのでしょうか?
もちろん、組織上の立場、心理的安全性といったさまざまな原因が考えられるものの、最近は根本的な原因は私たち日本人が「組織に従うこと」「自分たちのできる範囲で考えること」「可能性を追求してはならない」ように教育されているからと考えるようになりました。この問題は根深いのでまた別の機会に考察したいと思います。
解決可能な問題にフォーカスし続けた先に待つもの
前項でも書きましたが、自分たちの解決可能な問題解決にフォーカスし続けていると、部分的なカイゼンが進み、チームの雰囲気はよくなるかもしれません。しかしチームは次第に無限の可能性を追求する姿勢と、チームが描く理想の未来に向かっていく姿勢を失っていきます。そして、深い閉塞感にプロジェクトが包まれます。
ゴールにフォーカスすれば良いか?
では、チームは中長期的なゴールにフォーカスし、ゴールを実現するための課題を設定し解決していけばよいのでしょうか?
答えはゴール次第です。
つまり「チーム自らが可能性を追求して設定したゴールであれば」YESであり、「チームが妥協して設定したり、ただ会社から与えられたゴール」であればNOです。
理由は「チームが妥協して設定したり、ただ会社から与えられたゴール」では結局チームは受け身の姿勢になり、モチベーションが減退していき、推進力を失っていくためです。
もちろん現実ではチーム目標が勝手に設定されることも多いと思います。
その場合も、チームが目標について議論を重ね、納得いくまで調整することが大切ではないかと考えます。
チームが見るべきは夢と理想である
「チームは問題解決を見てはいけない」
では、チームは何を見るべきでしょうか?
今の私の答えは「問題解決」を見る前に、「夢と理想」を見るです。
コーチングでは、「組織に従うこと」「自分たちのできる範囲で考えること」「可能性を追求してはならない」という魔法を解くためによく「原因(Why)」ではなく、以下のような問いかけをします。
- あなたは何(What)がしたいか?
- あなたはどんな風(How)になりたいのか?
- もしも魔法の杖があるならば、何をしますか?
そうして引き出された夢と理想には、人を積極的に行動にかりたてる力があると経験してきました。こうしたコーチングで人の可能性を追求する力をチームにも活かせないかと最近よく考えます。自分たちが納得する「夢と理想」を見出したら、あとはそこに対する問題を解決していけば良いのです。
おわりに
今回は考察上、「問題にフォーカス」することの問題点を挙げていきましたが、今後ともKPTに代表される問題解決フレームワークや「カイゼン」などの考え方は重要であり続けます。
しかし、森さんのブログにあるように現状のビジネス環境では「問題解決」や「カイゼン」というだけでは対応することは難しく、個人やチームで「夢や理想を追求し」「課題を創出する」こともまたとても重要になっていくと私は思います。
ただ、昨今の「アジャイル」「スクラム」などで行われるビジネスの多くは、課題創出型です。顧客のより大きな発展のために、顧客に寄り添いながら、少しずつ前に進みながら(漸進的に)課題を見つけていき、企業成長を目指すアプローチ。または、「顧客の顧客」に向けて、市場の「課題」を見つけ、そこに切り込み、大きな利益を生もうとするアプローチ。
今回は、私なりの「チームは問題解決を見てはいけない」の答えを書きました。
もし良ければみなさまの考えもぜひ聞かせてください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!