アジャイルコーチの備忘録

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atama plusの大規模スクラム(LeSS)リモートイベント見学レポート【前編】

以前から大規模スクラム(LeSS)の書籍を繰り返し読み、コミュニティに参加し...と大規模スクラムの理論を学んできましたが、「理論は素晴らしいけど、現実で上手くいくのだろうか?」とどこかで感じてもいました。

そんな折、認定LeSS実践者研修で知り合い、大規模スクラムを実際に導入したatama plusのスクラムマスター河口さんから、「良ければウチの現場を見学しない?」と言葉を掛けていただき、ようやくこの目で大規模スクラムを見学することができました!

今回は、前編と後編に分けて、見学レポートをお届けします。
前編ではスクラムイベントの流れや、atama plusが独自にplusしている工夫を書いていきます。*1

こんな方にオススメ

  • 大規模スクラム導入を検討されている方
  • リモートでのスクラムイベント運営について知りたい方
  • atama plusのスクラムイベントについて詳しく知りたい方

atama plusと組織構成

atama plusとは中高生向け一人一人に最適な学習カリキュラムをAIが生成する「atama +」というサービスを開発運営する会社です。
「atama+」は開発者、UI/UXデザイナー、QAで構成された5〜6人からなる4チームが大規模スクラムでプロダクトを開発しています。
専任スクラムマスターは2名で、それぞれ2チームずつ担当しています。
詳しくは以下をご参照ください。

speakerdeck.com

大規模スクラムとは?

大規模スクラムとは2〜8チーム向けの大規模アジャイルフレームワークです。
1つのプロダクトバックログを1人のプロダクトオーナーが管理するというスクラムのコンセプトを踏襲しながら、複数チームが連携しながらプロダクトバックログアイテム(以下、PBI)を優先順に実現します。
詳しくは以下をご参照ください。

less.works

見学したスクラムイベント

  • スプリントプランニング
  • 複数チームプロダクトバックログリファイメント(以下、複数チームPBR)
  • オーバーオールレトロスペクティブ
  • レトロスペクティブ
  • デイリースクラム
  • 教室長ワークショップ(「atama +」のユーザーインタビュー結果をチームメンバーに共有するためのワークショップ)

atama plusのスクラムイベントはリモートに移行しており、Zoom、Googleスプレッドシート、Jira、Miro等が利用されていました。

今回は、大規模スクラムでとりわけ特徴的なイベントである、スプリントプランニング、複数チームPBR、オーバーオールレトロスペクティブについて書いてきます。

スプリントプランニング

最初にご紹介するのはスプリントプランニングです。
大規模スクラムでのスプリントプランニングの特徴は、1チームスクラムの流れに加えて、チーム間で調整しながらチームが担当するPBIを決定することです。

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参照:https://less.works/img/framework/sprint-planning.jp.png

スプリントプランニングイベントはZoomで実施され、POおよび全チームメンバーが参加します。
テーマ(プロダクトバックログをまとめるビジネステーマ)はMiro上の付箋で、プロダクトバックログはJiraで管理されていました。

スプリントプランニング第1部の流れ(1h)
  1. テーマと優先順位についてPOが説明
  2. 新しく作成されたPBIの概要/ビジネス背景をPOが説明
  3. 次スプリントで実現したいPBIをPOが説明
  4. 各チームメンバー同士で話し合いながら、チームが担当するPBIを決定
スプリントプランニング第2部の流れ(1h)
  1. チームごとにブレイクアウトルームに分かれ、プランニング第2部を実施(スプリントバックログはMiro上の付箋やJiraのサブタスク等で管理)

複数チームPBR(複数チームプロダクトバックログリファインメント)

大規模スクラムで最も運営が難しいイベントが複数チームPBRかもしれません。
大規模スクラムでは全チームが全てのPBIを担当する可能性があるので、スプリント開始前に全チームが全てのPBIを把握している必要があります。
しかし、全チームの全メンバーが全てのPBIについてリファインメントに参加するのは効率的ではありません。そこで、複数チームPBRではPBIごとにチームから代表者を割り当て、複数のPBIを並行してリファインメントを実施します。

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参照:https://less.works/img/framework/product-backlog-refinement.jp.png

リファインメント前日までに、リーディングチームが仕様の叩き台をGoogleドキュメントにまとめます。当日はドキュメントを共同編集しながらZoom上でリファインメントを実施していました。*2

イベントの流れ(PBIごとにリファイメント30分+チームへの共有10分)
  1. リファインメント対象のプロダクトバックログの全体感をPOが説明
  2. リファインメント対象のPBIのビジネス背景と満足条件(≒受入条件)をPOが説明
  3. PBIごとに、チームから代表者を割り当て(チームのSlackチャネルで議論)
  4. 各チーム代表者がブレイクアウトルームに移りリファインメントを実施
  5. 各チーム代表者がブレイクアウトルームに移りリファインメント結果をチームメンバーに共有
  6. リファイメント対象のPBIが無くなるまで、4と5を繰り返す

(4、5は複数のPBIを並行して実施)

オーバーオールレトロスペクティブ

チームでは解決が難しい、組織的な課題を解決するためのイベントがオーバーオールレトロスペクティブです。

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参照:https://less.works/img/framework/xsprint-review-retrospective.png.pagespeed.ic.4qxk6ndBIS.webp

atama plusではチームのレトロスペクティブで、チームで解決できる課題と組織的な課題を切り分け、組織的課題をオーバーオールレトロスペクティブの議題に追加していました。
また、課題だけではなく、組織に「ただ共有したいこと」をオーバーオールレトロスペクティブの議題に追加するケースもありました。
atama plusではオーバーオールレトロスペクティブは全員が参加するのではなく、参加したい人が参加する形式。オブザーバー参加もOKです。私が見た際には、組織的課題を提起した方が積極的に参加する傾向にありました。
ちなみにatama plus代表の稲田さんもこのイベントは毎回参加されています。

Miroで付箋を利用しながら、Zoom上で議論していました。

イベントの流れ(1h)
  1. 参加者が持ち寄った組織課題を共有する
  2. 参加者の投票により組織課題の優先順位を決定する
  3. 解決策についてタイムボックスに区切り討論する(いわゆる「リーンコーヒー」に近い)

atama plusがplusしている工夫

今回のブログの終わりに、atama plusがスクラム運営に独自にplusしている工夫を一部挙げます。

  • PBI担当決めの効率化のため、各チームが担当したいPBIをスプリント前に事前に表明している(「お気持ち表明」と呼ばれています)
  • スクラムイベント運営コミュニティがあり、スクラムマスター以外のコミュニティメンバーがZoomのブレイクアウトルームの管理などのイベント運営をサポートしている
  • レトロスペクティブやデイリースクラム等のチームのイベントはスクラムマスター以外のメンバーがファシリテートしている
  • レトロスペクティブの最後にメンバー全員でレトロスペクティブ自体のふりかえりを実施し、レトロスペクティブのやり方を毎回改善している
  • チームメンバーが、ビジネス的な事情を鑑みつつも「このPBIは取れない」と調整する機会がある
  • 大規模スクラムの原則を組織に浸透させるために、スクラムマスターがイベントの冒頭で「調整と統合」などのキーワードを繰り返し伝えている

またスクラムマスターの河口さんによるとatama plusでは、創業当時より、プロダクトディスカバリーとプロダクトデリバリーを組み合わせた「デュアルトラックアジャイル」へ取り組んでおり、今回導入した「LeSS」との組み合わせた新しい開発手法を模索しているとのことでした。

note.com

また、atama plusでは見学も調整できるという事なので、大規模スクラムや「デュアルトラックアジャイル」に興味がある方は、是非河口さんにご相談してみてください!

後編では、僭越ながら、atama plusのスクラム運営の強みと弱みについて書く予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

*1:今回のブログは見学時点(2020年8月)のスナップショットです。

*2:ドキュメントの準備が大変で、リーディングチームの負荷が高いことがオーバーオールレトロスペクティブで課題視されていました。