チームはいつルールを破るべきか? あるいはスクフェス大阪のキーノートを聞いて #scrumosaka
今回はこれまでのスクラムマスターやアジャイルコーチとしての経験から、「チームはいつルールを破るべきか?」について考察していきます。
経験上、チームがルールを破るタイミングは以下3点です。
- ルールの背景にあるコンテキストが、現実と一致しなくなった時
- 破るメリットが、デメリットを上回る時
- ルール遂行が高い負荷を伴う時
- 1. ルールの背景にあるコンテキストが、現実と一致しなくなった時
- 2. 破るメリットが、デメリットを上回る時
- とここまで書いてきて、スクラムフェス大阪の永瀬美穂さんの基調講演を聞きました
- ↑しみったれたこと書いてるなーー自分!! って感じました
- 結局、チームはいつルールを破るべきか?
- おわりに
1. ルールの背景にあるコンテキストが、現実と一致しなくなった時
ルールには、目的や機能する状況などのコンテキストが存在します。
チームがルールを破るべき最初のタイミングは、そのコンテキストが、現実のコンテキストと一致しなくなった時です。
たとえば、「新入社員は出社次第デスクを拭く」という社内ルール。
ルールが制定された際は「新入社員に順応性や規律性を身につけてほしい」という目的があったのかもしれませんが、現在、その企業が新入社員に順応性ではなく自律性や創造性を身につけてほしいと考えているならば、そのルールを遵守することは無意味どころか有害です。
経験上、こうした状況は企業の社内ルールに多く見られます。
企業では問題が発生すると、問題解決のための一時しのぎ的なルールが制定され、その後コンテキストが変わっても盲目的に遵守されることが多いからです。*1
注意: ルールではなく現実が問題だと指摘するルールもある
この時注意すべきなのは、ルールではなく現実の方が問題だと指摘するルールもあること。
たとえば、スクラム。
多くの方がスクラムガイドを読んでまず感じるのは、「ウチには当てはまらない、ウチには無理」ではないでしょうか?
- ビジネス部門と技術部門の協調
- チームだけで出荷可能なソフトウェアを短期間で開発する
などのスクラムのルールを、組織構造や、受託開発という仕事形態などの現実のコンテキスト下で適用するのは難しいとスクラムの全面実施を諦める組織を多く経験してきました。
しかし、自分の解釈では、スクラムとは「そのルールが成り立たない現実こそ変容せよ」と我々に迫るためのフレームワークです。*2
そして現実を変容させる旗振り役は、スクラムマスターと呼ばれます。*3
ですので、現実のコンテキストとそぐわないからとルールを破るのは、時に現状追認やルールの価値を損なう結果もあるので注意が必要です。経験上、スクラムなどの客観的に一定の実績があるルールを、現実では不可能だと投げ捨てる場合はただ単に現状を追認していたり、妥協しているだけという場合が多く見られます。
2. 破るメリットが、デメリットを上回る時
チームがルールを破るべき2つ目のタイミングは「破るメリットが、デメリットを上回る時」です。
注意: ルールを破りたい場合、メリットは明白だが、デメリットは見えていないことが多い
ここでの問題は、ルールを破る場合(作る場合も同じですが)、破りたいメリットが本人にとっては明白でも、デメリットは往々にして全部見えていないことが多いことです。*4
なぜなら、すべてのデメリットを見るためには全体像が見えている必要がありますが、たいていの場合私たちは全体像が見えていないからです。*5
たとえば、自分のスクラムマスター時代の話。
自分は前職でのスクラムマスター時代、チームが成り立てだったということもあり、チームとして仲良くなることを優先し、デイリースクラム(朝会)を60分とって毎朝雑談していました。本来は15分以内で終えなければならないことを漠然と覚えていましたが、「チームが仲良くなる/楽しむ」というメリットのために、深く考えずにそのルールを破っていました。
また、迅速なリリースとチームに与えられた高いKPIを達成するために本来社内でしなければならなかったテストコードやコードレビューを簡略化していきました。
当時、自分が見えていた世界はこんな感じでした。
狙い通り、チームは仲良くなり、チームに与えられた高いKPIを達成しましたが、問題はその後、自分が見えていなかった領域から様々なデメリットが噴出したことです。チームは次第に規律を失い、低品質なコードを量産し、知らず知らずの内に他チームやマネージャーからの信頼を失っていきました。
結果、自分は会社を去りました。
全体像が見えないまま深く考えずに目先のメリットを優先させると、こんな結果が待っているという例です。
↑しみったれたこと書いてるなーー自分!! って感じました
永瀬さんのキーノートで印象に残ったのは、以下。
- スクラムは非秩序系への対応が得意
- ふりかえり等でこれこれのプロブレムがあるのでこういうトライをするとか、そんな単純に分析可能?、そんなに相関関係ってはっきりしてる?
だから、もっと複雑系の世界で、何が影響するとか、予見できないところを目がけて実験を繰り返していこうという話でした。
なぜなら、すべてのデメリットを見るためには全体像が見えている必要がありますが、たいていの場合私たちは全体像が見えていないからです。
と前項で偉そうに書きましたが、全体像とは、無限の属性があり、属性同士が複雑に関連しあい、絶えず変化し続けるシステムです。私たちに見えるわけありません。
パワポで気をつけるべきは「イシューツリー」とか「MECE」的お作法が広がりすぎて、その形で問題を整理して資料化すると、みんなが「分かった気になる」ことかなと。実際は、要素間の依存関係や因果関係はもっと複雑かつ不透明だし、構造もどんどん変化するので、図式化で理解した気になるのが怖い。
— とくさん (@nori76) 2020年6月28日
結局、チームはいつルールを破るべきか?
というわけで最初の問いに戻ると、チームはいつルールを破るべきか? と聞かれたら、「破りたくなったらいつでも!」と答えます。
ルールを破りたいという時は破りたいという理由があるからですし、どんどんやってみましょう。ただし、その際は「実験」として行うのが重要です。つまり、
- 最初に仮説を立てましょう
- 注意深くどんな影響があるかを観察しましょう
- 悪影響(とりわけ他人)が出たら早めに撤退しましょう
「失敗したらどうするか」 だって?
大丈夫、およべさんの口癖を借りればそれは「失敗に成功した」だけのこと。
そもそも長い目で見れば、あれは成功だとか、失敗だったとか言えるわけがないのですよね。
おわりに
今回はチームはいつルールを破るべきか? について考察してきました。
スクラムフェス大阪のキーノートを経て、最初に書きたかったこととまるで違う結論になり、訳のわからないブログになりましたが後悔していません。
永瀬さんのキーノートを聞いて、自分も知らずにいつの間にか守りに入っていたのではないかと考えてしまいました。アラフォーになり、先日娘が誕生し、「盗んだバイクで走り出す」と聞くと盗まれた方にとってはとんだ迷惑だなぁ「夜の校舎 窓ガラスを壊して回った」と聞くと窓ガラスは税金で修理するのだろうかと考えてしまう年齢になりました。けど、尾崎豊がルールを破ったおかげで、当時は誰かが被害に合ったかもしれないけどその何百万倍以上の方を感動させる結果になったのです。ルールを破って良かったかどうかなんて最後まで誰にもわかりません。
フェス、フェス!!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!!
*1:ルールではありませんが、LeSS(大規模スクラム)では、問題発生時にその問題に対応するためのマネージャーを増やすことを、ほにゃららマネージャーと揶揄されています。 www.amazon.co.jp
*2:スクラムとは「そのルールが成り立たない現実こそ変容せよ」と我々に問いかけるフレームワークです。ということに関して、こちらのブログが大変参考になります。*2bbbbashiko.hatenadiary.com
*3:長年の組織構造や契約という現実に立ち向かうスクラムマスターは、見かけ以上に遥かに大変な役割です。note.com
*4:「変革による利益と損失は、後者が確実に生ずるものであるのに対し、前者はその可能性があるにすぎない」(マイケル・オークショット)
*5:各人の技能のごとの技能向上を5段階化で示したドレイファスモデルでは、「全体像を持つ」かどうかが4段階目の熟練者になるためのポイントとされています。そして、ほとんどの人がほとんどの技能について3段階目の中級者より上の段階に行くことはないとされています。「複数の研究によると、悲しいことにほとんどの人がほとんどの技能について、人生の大半おいて、第2段階の中級者より上の段階に行くことはなく、「必要な仕事を行い、必要になると新しい仕事を学ぶが、仕事を広範かつ概念的に理解することは決してない」のです。(『リファクタリング ・ウェットウェア』より引用)」 www.amazon.co.jp