『アジャイルな見積りと計画づくり』を代わりに読む(1章 計画の目的)
1章 計画の目的
「計画することがすべてだ。立てた計画はどうでもいい。」
ーー陸軍元帥 ヘルムート・グラフ・フォン・モルトケ
さて、1章は計画の「目的」について書かれた章だ。
計画の目的? そんなの分かりきってるよ
と思ったあなたこそ、この本を、(そしてよっぽどお時間があれば)このブログを読んでいただきたい。
アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~
- 作者: Mike Cohn,マイクコーン,安井力,角谷信太郎
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2009/01/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 74人 クリック: 764回
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本書は難しいのは、かつて自分が習ってきた「計画」という言葉の意味や目的を、どんどんアジャイルの思想に沿って再定義していくためだ。
前ブログでこう書いたが、まさに本書における「計画」の「目的」を理解することが重要である。
ちなみにアジャイル開発においては、計画に限らず、他の用語も従来の開発における価値観や思想で捉えられ誤解されていることが多い。たとえば、スプリントレビューの目的を従来の開発における進捗会議の目的と同じと誤解して、苦しんでいる現場は(悲しいことに)数知れない。
アジャイル開発では用語やイベントの「目的」を理解する~頭に叩き込む~ことがとても大事だと思い知らされる毎日なのである。
前置きが長くなった。
本書での計画の意味を確認する前に、まずは一般的な用語の確認といきます。
将来実現しようとする目標と,この目標に到達するための主要な手段または段階とを組合せたもの。(ブリタニカ国際大百科事典)
とある、自分の計画のイメージもこんな感じだ(った)。
そのイメージが本書の、この文章で、ひっくり返る。
計画づくりとは価値の探求なのだ。とりわけ計画づくりを継続的に繰り返しながらおこなう場合はそうだ。計画づくりとは、ソフトウェア開発全体にわたる問いに対する適切な答えを探る試みだ。その問いとはすなわち「なにをつくるべきか?」である。
自分が抱いていた計画の目的は、「何かを実現するため」に「実現方法、手段、スケジュールを考える」ことだった。
しかし、本書での定義は逆なのだ。
計画とは「実現する何かを探すため」に行うプロセスなのである。
だからこそ本書では、最初に重大な「計画(plan)」をするのではなく、継続的に細かく「計画づくり(planning)」することの重要性を説く。
とはいえ、「何をつくるべきかわからない」から計画を立てること自体意味がないと思われてしまうかもしれない。
またなんだかんだ言っても、長期計画とコミットを顧客、投資家、経営層などのステークホルダーから求められるのが世の常だ。
その場合はどうしたらよいのか?
もちろん、計画の目的は価値の探求が中心だが、それだけではない。
この本の計画における「よい計画づくり」の特徴は5つだ。
- リスクを軽減する
- 不確実性を減らす
- 意思決定を支援する
- 信頼を確立する
- 情報を伝達する
この中には「不確実性を減らす」のように開発の中で学習したことを次の計画やプロダクトに反映する特徴があれば、一方、「意思決定を支援する」「信頼を確立する」のようにステークホルダーを支援したり、顧客との信頼関係を確立するための特徴もある。
つまり本書にとって計画とは、
- 詳細な長期計画は無理かつ無意味
- 計画づくりを細かく繰り返すことでユーザーが本当に求めるプロダクトを作る
という立場を取りながらも
ことが同時に求められるプロセスなのだ。
経験豊富なスクラムマスターやアジャイルコーチは上記を良いバランスで達成するに違いない。
ハーブティーを飲み、微笑みながら。
しかし、これだけを読むと新米アジャイルコーチの自分にとってはほとんど「無理ゲー」に近いものを感じる。
これらをどういう良い感じのバランスで達成していくか、2章以降に書かれていると信じて筆をおきます。