アジャイルコーチの備忘録

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未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう

これを書いている2020年5月26日、全国の緊急事態宣言が解除され、社会がゆっくりと復旧に向かって動き出そうとしています。それ自体はとても素晴らしいことです。
ただ自分のように、

  • これまでの社会を元通りにするだけで良いのか? と感じている
  • 何かを変えたい
  • 誰かと一緒に始めたい

と感じながら、

  • どうやれば良いかわからない
  • 自信がない

という方も少なからずいるのではないかと感じています。
今回はそんな方に是非オススメしたい、『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう ――震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦』という本を取り上げます。

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本書は、ニュー・ストーリーズ共同代表/社会変革ファシリテーターのボブ・スティルガー氏による、2011年の東日本大震災時における福島県での様々なコミュニティ生成のレポートであり、それを支えた理論やテクニックが紹介された本でもあります。以前このブログでもご紹介した社会変化のためのTwo Loopsモデルも詳しく紹介されています。

norihiko-saito-1219.hatenablog.com

このコロナ禍において、いくつかのささやかなコミュニティ作りをしている自分の経験も交えながら、本書の印象に残った箇所を3つ取り上げます。

1. ないことよりもあるものに焦点を当てる

ボブが繰り返し示してくれる明確な思想がある。それは、ないものに焦点を当てるのではなく、あるものに焦点を当てるということだ。解決策がない、リーダーシップがない、専門家がいない、資金がない、といった視点からは、社会変革は起きない。
社会変革が起きるのは、私たちが自分たちの持っているものに気づいたときである。自分たちには強みがある、仲間がいる、それぞれが持つ知織やがある、そして何よりコミットメントがある。そう自分たちの組織や地域を信じることができたとき、変化は起きる。

著者が本書で繰り返し主張しているメッセージに、「ないことよりもあるものに焦点を当てる」があります。本書では、津波によって漁船や冷凍工場や魚介加工場があらかた破壊された後、船の帆の素材である帆布を利用してハンドバック作りに成功した気仙沼市のエピソードが印象的でした。

以前、自分が作ったコミュニティになかなか人が集まらないと嘆いた際に、あるメンバーから言われた言葉が忘れられません。

「もっとメンバーが欲しいという前に、今ここにいる人を大事にすれば?」

人脈がない、知名度がない、専門的な知識がない......自分はこれまでコミュニティ作りに限らず、ないものに目を向けがちでした。
ただ、これからは「あるもの」に目を向けていきたいと思いました。

2. 悲しみを受け止め、共有する

悲しみを抱きしめること。悲しみは現実であり圧倒的なものだ。知的に処理する必要はない。完全に凌駕されてしまう必要もない。来るに任せる。その中で呼吸する。それに親しむ。悲しみは本当の自分が何者なのかに関し、たくさんのことを教えてくれる。

上記と同様に本書で繰り返し主張されているメッセージに、「悲しみを受け取め、共有する」ことがあります。
私たちは、悲しみや不安から目を背けたり、ムダな感情だと流して前に進もうとしがちです。

「悲しみはとりあえず置いて、前に進もう」と。

このコロナ禍でも「私には影響なかった」「悲しみはとりあえず置いて、前に進もう」いう方が多いかもしれません。
ただ、そのような方でも悲しみや不安は必ずあると感じています。
それらを表現し、共有することが未来を創るコミュニティ作りではとりわけ重要と著者は語ります。

なぜなら、悲しみや不安は、私たちが大切にしていることを教えてくれる、とても重要な徴しでもあるからです。

3. "あなた"が始める

もし僕がしないなら、誰がするのか?僕が確信と勇気を持たず、言葉を紡がずにいたら、誰がするのか?この物語を織りなすすべての人たちとともに、僕もまた立ち上がらなければならない。

「外人」である著者が、日本のコミュニティの復興について書いても良いのかどうか怖れますが、最終的には意を決して書き始めます。
そして、本書では、ごく普通の人たちがコミュニティを立ち上げ、周りを巻き込んでいく様子が多く描かれています。
誰かと一緒に未来を創りたい、とあなたが思ったら、恐れることはありません。
あなたが始めれば良いのです。

おわりに

今回は、『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう ――震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦』という本から、これからコミュニティを始めたい方にとって役に立ちそうなアイディアを取り上げました。

本書は東日本大震災の経験が描かれた本ですが、東日本大震災福島県をはじめとする一部地域に大きな被害をもたらしたのに対し、今回のコロナ禍は日本全体に被害をもたらしています。自分の周りでも、Code for Japan のように何かを変えたいとコミュニティを作っている方が増えてきていますし、自分でも作りたいと思っている方も大勢いるのではとも感じています。僕もそんな一人です。

その際、外国人でありながら東日本大震災下で福島で様々なコミュニティを形成していった著者の経験がとても活かせるのではないか、今こそ読む本ではないかと思い今回ご紹介してみました。個人的には関心がある「U理論」の実践例としても、とても興味深く読みました。

自分もコミュニティ作りに四苦八苦していますが、コミュニティのほとんどはうまくいかなくて当たり前だと著者は言います。それでも幸いなことに、現在は東日本大震災時と異なりオンラインツールが発達し、誰でも気軽にオンラインコミュニティが作れるようにはなりました。本書を読んでからは、いろいろなことを気楽に、試していければいいなーと最近は感じています。

人々は新しいことを試し、成果を見つけていく。試すことのほとんどはうまくいかないことを頭に入れておこう。それでも試みを続ける。何かが必要なことはわかっている。公式にあるいは非公式に互いにつながって、互いに学び合おう。行動する。止まる。吟味する。振り返る。学ぶ。そして再び行動する。

おまけ

オンラインコミュニティの運営について以下のnoteがとても参考になるため、もし良ければお読みください!

note.com