スプリントゴールの効果
私は支援の際、スクラムが健全に機能してるかどうかを示す指標の一つとしてチームがスプリントゴールを設定しているかどうかを見ています。実際、スプリントゴールを設定していないチームは多いです。以前とあるチームに何回かスプリントゴールを設定するよう促しましたが、最後までチームはスプリントゴールを設定することはありませんでした。そこで今回は、今までの経験から、スプリントゴールを設定しないチームの特徴やスプリントゴールの効果について説明します。
スプリントゴールを設定しないチームの特徴
経験上、スプリントゴールを設定しないスクラムチームには共通点があります。
それは、開発チームが「下請け扱いされている」または「ビジネスに関心が薄い」ことです。
具体的には開発チームがPOの下請け扱いされている組織(とそれと似た力関係の組織)、POやUXデザイナー等が詳細な仕様やデザインを決定してしまう組織、またはビジネスに関心が薄い開発チーム、スクラムを始めたばかりの開発チームに多い現象です。
スプリントゴールとは文字通りスプリントで達成したいゴールですが、上記組織での多くの開発チームは「ビジネスゴールの実現ではなく、あらかじめ決定された具体的な機能を実現すること」が求められます。そのため、スクラムチーム全体で抽象的なスプリントゴールを設定する意味が薄く、具体的なバックログリストがスプリントゴールの代わりとして利用されます。
とはいえ、スプリントゴールの欠如はやがて大きな問題につながると筆者は見ています。
スプリントゴールがないことによる問題
スプリントゴールとは、スプリントの目的です。
スプリントゴールとは、チームが一致団結して作業するための旗印です。
スプリントゴールの欠如は、3つの問題を開発チームにもたらし、次第に組織全体にダメージを与えます。
1つ目は、ゴールではなく具体的なバックログのみが与えられた開発チームは「ゴール実現のためにより良い手段はないか」という視点から創意工夫や提案することが必要ないため、自律性や思考力が育たないことです。
2つ目は、ゴールがないと「スプリントでこのバックログを実現しなくてはならない理由」が開発チームがわからないため、次第にモチベーションを失っていくことです。人は作業に意味と目的と求める生き物です。
3つ目は、ゴールは共通の判断基準として機能するため、ないと細かい調整や判断に時間がかかり、やがて集中力が途切れてしまうことです。
では、スプリントゴールを設定するとどのような効果があるのでしょうか?
スプリントゴールの効果
例えば、あるチームでは「できるだけ速く様々なビジネスアイディアをユーザーテストしたい」というスプリントゴールを設定した結果、チーム全員が自動的に下記の共通認識を持てました。
- プロダクションコードを修正しなくてよい
- デザインを凝らなくてよい
- 速さ重視のため、既存プロダクトを積極的に利用しなければならない
- チーム全員で様々なアイディアを出さなければならない
- ユーザーテストをするため、カスタマーサポート部と連携しなければならない
スクラムチーム全体でスプリントゴールを共有することで、何をすべきで何をすべきではないかという判断基準が明確になり、意思決定や調整がどんどん素早くなっていきました。
さらに、チームが向かうべき共通のゴールがあることで、自分のスキル外のタスクを実施し、助け合うカルチャーが生まれるきっかけとなります。