アジャイルコーチの備忘録

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アジャイル導入への最大の敵は、アジャイルを叫ぶあなたかもしれない - 『U理論入門』を代わりに読む

はじめに

アジャイルコミュニティで一番飛びかう質問は、

「組織にアジャイルを導入するにはどうしたらよいか?」

ではないでしょうか?

もしも私に訊ねられたら、以下のように答え『Fearless Change』を勧めていました。

  • 相手にヒアリングする
  • 相手の課題を解決する
  • アジャイルのメリットデメリットを説明する

まちがってはいない...はず......。多分...。
ただ、どうもそれだけでは足りないのではないか? と最近考えるようになりました。

というのも、相手の課題を解決したり、アジャイルの重要性を理解させるような「頭で理解させる」手法では今一つ定着しないと感じる場面も多々あるからです。たとえば、ワークショップでアジャイルに納得した某社ビジネス部門のメンバー。はじめのうちはスクラムイベントに意気揚々と参加しレトロスペクティブも一見盛り上がっているように見えたのですが、「忙しい」という理由で次第にスクラムイベントに出席しなくなる、ということを経験しました。しかし、どんなに忙しくとも、本人にとって重要ならば調整しても出席するのではないのでしょうか。私はその時学びました、組織内での深い合意が得られていない施策は、はじめだけ火花を散らしはかなく消える、線香花火のように。

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Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン

人はメリットでは動かない

なぜ「頭で理解させたり、メリットに訴えかける」という手法は長続きしないのでしょうか。
それは、各メンバーの信念やメンタルモデルや利害が深く異なっているという現実が横たわっているからです。
そこに目を向けないまま、自分の想いや表面的なメリットを提示しても、その場限りの了解は得られても、本当の意味で相手を納得させることはできません。あと内心相手をどこかで「全然わかってくれないダメな上司」と思いながら話すと相手はその思いを確実に感じとります、人間は賢い。

U理論とは

そんな漠然とした問題意識を抱えていた私にとって、『U理論入門』は一つの大きなヒントになる書物でした。
本書は文字通りUの谷を下っていく中で、メンバー同士の信念やメンタルモデルや利害の相違をどう乗り越えるかが描かれています。
少し長いですが、Amazonより内容紹介を引用します。

U理論は、MITのC・オットー・シャーマー博士とマッキンゼーの知的連携により、世界トップクラスの革新的なリーダー約130人にインタビューした結果生まれたイノベーションの方法です。誰もが頭をかかえる人と組織のやっかいな問題も、これまでと全く異なるアプローチにより、対症療法に終わらない本質的な解決をもたらすことができます。

では、なぜそれができるかというと、我々が変革を起こそうとする際の「盲点」に気づいたからです。我々は革新的なリーダーが「何をどうやるか」には注目し、学んでもいますが、「どんな内面の状態から行動を起こすか」という行動の「源(ソース)」には目を向けていなかったのです。

本書は個人、ペア・チーム、組織・コミュニティにおいて「行動の源(ソース)」を転換すべくU字型の谷をくぐりイノベーションを起こすU理論の実践入門書。重版を重ねている原書『U理論』の訳者で、変革ファシリテーションの実績を豊富にもつ著者が、多数の現場のエピソードをもとに、U理論の本質と実践法をわかりやすく解説します。

【もう少し紹介を続けると…】

オットー博士は、イノベーションを起こすプロセスを、別紙のように「U」字型のモデルで表現しています。U理論は大きく言うと、この3つのプロセスで成り立っています。
(この頁トップ左の表紙下のイメージ図参照)

1 センシング ただ、ひたすら観察する
2 プレゼンシング 一歩下がって内省する。内なる「知(ノウイング)」が現れるに任せる
3 クリエイティング 素早く、即興的に行動に移す

これは1のセンシングから2のプレゼンシングの状態にたどり着いたときに「未来」が出現し、そこから得た直感やインスピレーションに、1人あるいは複数で形を与えることでイノベーションが現実化していくことを表しています。
この図を見ただけで、何かピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。U理論は我々がすでにもっている知恵や創造性を意図的にひきだす方法論でもあるのです。

人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門

人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門

  • 作者:中土井僚
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/01/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

アジャイル導入を阻む最大の敵は、アジャイルを叫ぶあなたかもしれない

ここに来てタイトルに戻りますが、なぜ「アジャイル導入への最大の敵は、アジャイルを叫ぶあなたかもしれない」なのでしょうか?
それは、あなた自身が「アジャイルがやりたい」という強い枠組み(信念やマインドセット)に囚われ、知らず知らずのうちに他の人の枠組みに無関心だったり否定しているからであり、それが他の人からの反発を生むからです。それは「アジャイル」や「スクラム」と言った専門用語を使わないことや、自分と同じ枠組みの仲間をコミュニティなどで見つけることで軽減されるかもしれませんが、根本的な解決とはなりえません。

では、一体、本当の意味で他の人の信念やマインドセットにどのように共感すれば良いのでしょうか?

まずは、あなた自身が自分の枠組みを見つめ直し、枠組みから自由になることです。
あなたが自分の枠組みに囚われている限り、真の意味で他者に共感することはできない。

具体的にどうやって実現するのかは今回の記事では触れないため、是非本書か他のブログをあたってみてください。原書の『U理論』は抽象的な記述が多いとの噂(未読)ですが、本書は著者のドラマティックな組織変革の現場やワークショップを通して具体的にどうすれば良いかが豊富に紹介されています(筆者のオススメは「パーソナルUプロセスの実践ワーク「創発型問題解決法」」です、一人でもできるので是非実践されることをオススメします!)。

おわりに

今回は『U理論入門』の解説というより、普段から漠然と感じていたことを言語化しました。
Googleで検索すると「U理論 怪しい」「U理論 宗教」というサジェストが出てくるので敬遠されてる方もいるかと思いますが、組織構築や組織変革に悩む方にとってはこれほど有用なツールボックスもないと感じます。まだまだU理論は触れたばかりなので、これから原書を読んだりして考察が深まったら再度レポートしたいと思います!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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