アジャイルコーチの備忘録

3歩歩いたら忘れるニワトリアジャイルコーチの備忘録。書評、活動記録など...

Fun! Learn!...そして運営の努力! に満ちた約180分のお祭り - アジャイルひよこクラブレポート(2019/10/18(金))

先週の10/18(金)、アジャイルひよこクラブというアジャイル・コミュニティに参加したのでレポートします。レポートのタイトルを「Fun! Learn!...そして運営の努力! に満ちた約180分のお祭り」としたのは、2回目の参加ながら「アジャイルに大切な知恵はすべてアジャイルひよこクラブで学べるのでは?」と思えるくらいの学びの量と密度の濃さに毎回驚いているため。というわけで今回は発表への感想パートとアジャイルひよこクラブがなぜ学びが多いのかを個人的に解説するパートの2本立てでお送りします。

f:id:norihiko-saito-1219:20191027003849p:plain
集合写真

アジャイルひよこクラブとは?(connpassより引用)

本コミュニティーアジャイルな開発を

実践しはじめた人
実践してみたけどうまくいかなかった人
実践してみた結果もっと改善したいと思っている人
まだ実践していないけどこれからチャレンジする人
というアジャイルビギナーのためのコミュニティーです。

ひよこ(ビギナー)がにわとり(エキスパート・ベテラン)にアジャイルな開発手法のコツや失敗しがちなポイントなどのアドバイスをいただくことで、失敗してしまった人は、次こそうまくいくように、ちょっとうまくいっている人は、もっとうまくいくようになることを目指して活動しています。

発表

アジャイルひよこクラブは、発表とお悩み相談会の2本立て(懇親会も入れれば3本立て)。
今回のテーマである「何が大事?「マインドセット」だ!」に沿った3本のLTとメイン発表について感想を語ります。

LT1:warppy251さん 「いつでもどこでもマインドセットを身につけよう」

LT1本目はクラスメソッドでスクラムマスター、そして私生活では子育て、ガーデニング、ランニングなど様々なことにチャレンジする尊敬するwarppy251さんによる「いつでもどこでもマインドセットを身につけよう」。
この、「いつでもどこでも」というのがミソ。良いと思ったマインドセットは仕事に限らず趣味やプライベートでもいろいろ適用し、学びのフィードバックループを加速させようぜという話でした。

speakerdeck.com

  • 感想

アジャイル」というとビジネス、もっと言えばIT用語と思われがちですが、本来はマインドセットの集合なのでITだけに閉じたものではありません。アジャイルスクラム周辺には「計画に従うことよりも変化への対応」「サーバントリーダー」など仕事に限らず家庭生活や趣味の世界でも十分適用できる素敵なマインドセットにあふれているのに私生活で活かさないのは個人的にも常々とてももったいないと思っているので、まさに「我が意を得たり」という内容でした。結論の「夢中になっていること×マインドセット」に象徴されているように、warppy251さんをはじめ、自分が尊敬するアジャイルの師匠たちはこの「夢中になっていること×マインドセット」ができているように見える方々ばかりです。

LT2:ke-ta-fさん 「マインドセット地獄絵図」

LT2本目はメーカー系HWの保守会社で情シスに所属するke-ta-fさんによる「マインドセット地獄絵図」。社内で開発しているBIツール開発をアジャイル的に進めた結果デスマーチに陥ったke-ta-fさん。再度本当のアジャイル開発にするべく「ビジネスサイド」「経営層」「情シス」「エンジニア」の4種類のステークホルダーに対して画策しリベンジに挑んだ話です。

www.slideshare.net

  • 感想

「この数年で、組織変革の仮定に関する新たな理解が得られてきている。トップダウンでもボトムアップでもなく、システムの共通理解を通じて、すべての階層が参加するものだ。」というピーター・センゲの言葉通り、アジャイル開発を成功させるにはすべての関係者を巻き込んで進めるのは王道。しかし、自分に言わせればこれこそ「言うは易く行うは難し」の典型例。なので実際に「ビジネスサイド」「経営層」「情シス」「エンジニア」の4種類のステークホルダーに対しそれぞれ作戦を立ててコミュニケーションをしていったke-ta-fさんは、まさに凄いの一言と思いました。
(あくまで主観と断ったうえで)「経営者が一番チョロい」とおっしゃってたke-ta-fさんの印象はまさに「老練な大人の知恵」が詰まった方。そして、個人的にも、正攻法だけではなく老練な大人の知恵が組織を変える大きなスパイスになるのを多々体験してきました。もしアジャイルを導入する際は是非参考にしていただきたい貴重な体験談です。

LT3:Satoshiさん 「開発未経験者が語る、若手が成長できるスクラムの視点」

最後のLTは、Satoshiさんによる「開発未経験者が語る、若手が成長できるスクラムの視点」。発表者は2年間保守運用に携わっており、3年目に始めてプログラマーとしてアサインされたプロジェクトで奮闘する某Web系会社に所属するSatoshiさん。最初は設計もコーディングもしたことがなくついていけるかどうか不安だったSatoshiさんが自分たちで話しあって設計や見積するスクラムのおかげで、不安を徐々に解消されていったという話でした。

f:id:norihiko-saito-1219:20191027004302p:plain
発表の様子

  • 感想

今回の発表の中で一番懐かしさ混じりの共感を持って聞いた発表でした。
こういう発表を聞いたり、アジャイルコーチをする中でしみじみ思うのは「スクラムや関連する手法って本当によくできてるなー!」と言うこと。というのは一つ一つの手法やツールに複数の理由やメリットが込められているためです。見積もその一つ、スクラムではよくプロダクトバックログアイテムを「プランニングポーカー」という合議的な手法で見積ますが、その際も単に「できるだけ見積の精度を上げたい」「なるべく速く見積もりたい」といった理由だけではなく今回の発表のように「メンバーのスキルアップ心理的不安の解消」みたいなことも立派な理由の一つだと思うのですよ。Satoshiさんがエンジニアとしてますます成長していくことを陰ながら応援しております!

発表 (メインスピーカー):うゑのさん 「マインドセットが変わるって本当ですか?」

今回のメイン発表は、マルチベンダーによる大規模開発へのスクラム導入に挑むマネージャーのうゑのさんによる「マインドセットが変わるって本当ですか?」。なるべくメンバーのマインドセットが自発的に変わるように「やっていきたいことの方向性だけ伝える」「紙に書いたり貼ったりすることを勧める」などのさまざまな工夫をしていったものの、徐々にモチベーションの低下やメンバー同士の確執を招いてしまったという悪戦苦闘の「失敗談」のシェアでした。

  • 感想

大好きな詩人のG・K・チェスタトンが「風はすべて目に見えないものを代表している」という言葉を残していますが、まさに風のように見えないマインドセットを変えようとさまざまに工夫し奮闘したうゑのさんの一つ一つの言葉が重く胸に響きました。「やっていきたいことの方向性だけ伝える」「紙に書いたり貼ったりすることを勧める」などの試みは個人的にもとても良い工夫だと思いました、が、それだけではなかなか変わらないのがマインドセット、てか人の心。しかし、発表の最後にあったように「押し付けたくないといいつつ、実は押し付けていたのかもしれない」や「彼らにとっては、いつのまにか自分事じゃなくなっていたのかもしれない」と失敗ポイントと自分でふりかえっていたのが本当に素晴らしいことだと思いました。そこまで気づいていたら、成功まではあと一歩。他人のマインドセットを変えることの難しさに絶望した人だけが、他人のマインドセットを変えうると信じています。

アジャイルひよこクラブはなぜ学びが多いのか

さて、冒頭に「学びの量と密度の濃さに毎回驚いている」と書きました。その理由を考えた結果、明確な目的が定義され、目的に対するさまざまな工夫が張り巡らされているから。という結論になりました。

明確な目的が定義されている

まず、アジャイルひよこクラブでは以下の目的がはっきり定義されています。

ひよこ(ビギナー)がにわとり(エキスパート・ベテラン)にアジャイルな開発手法のコツや失敗しがちなポイントなどのアドバイスをいただくことで、失敗してしまった人は、次こそうまくいくように、ちょっとうまくいっている人は、もっとうまくいくようになることを目指して活動しています

目的に対するさまざまな工夫が張り巡らされている

アジャイルひよこクラブでは上記の目的に沿って、アジャイルの実務でもバリバリ使っているテクニックが自然に身につくような工夫が随所になされています。
ここでは自分が気づいた4つの工夫をご紹介します。

  1. コミュニティ自体のふりかえりを「Fun! Done! Learn!」でやっており、新しいふりかえり手法が学べる
    • 最後の方全員で「Fun! Done! Learn!」によるふりかえりをするのですが、ここで参加者は「Fun! Done! Learn!」のやり方を学ぶことが出来ます。
    • まだまだふりかえり手法の主流は「KPT」と感じるため、別のふりかえり手法を実際に体験できるのはアジャイルビギナーにとってお得感が強いと感じました。
    • f:id:norihiko-saito-1219:20191027004053p:plain
      Fun! Done! Learn!
  2. 全員で次のテーマを決めており、発散と収束による集団による意思決定のやり方が学べる
    • アジャイルによるチーム開発を始める際、意外と困るのが意思決定のやり方をトップダウンからチームによる合議制に変える具体的なやり方が分からないこと。
    • イデアを出し合って投票して決めるのは、チーム全員による意思決定の基本中の基本。ここもアジャイルビギナーにとって学びが大きいと思います。
    • f:id:norihiko-saito-1219:20191027004220p:plain
      次回テーマ決め
  3. ふせんでコミュニケーションするため、ふせんによるコミュニケーションが学べる
    • 基本的にアジャイルひよこクラブではふせんを中心にコミュニケーションするのですが、小さく優先度をつけやすいふせんはまさにアジャイル開発では必須ツール。アジャイルビギナーにとってはふせんによるコミュニケーションに慣れる良い機会だと思いました。
  4. 「ひよこ(ビギナー)」と「にわとり(エキスパート・ベテラン)」が一目で分かる(見える化)ようになっている
    • アジャイルひよこクラブでは「ひよこ(ビギナー)」がイエローのストラップ、「にわとり(エキスパート・ベテラン)」がオレンジのストラップと「ひよこ(ビギナー)」と「にわとり(エキスパート・ベテラン)」が一目で分かる(見える化)ようになっているのが特徴です。なんだそんな単純なこと、と笑うなかれ。こうした見える化の細かい工夫の積み重ねが結果的に生産性を飛躍的に高めることを知っているのがきっとにわとり(エキスパート・ベテラン)なのですよコケコッコー!!

おわりに

_ay182さんによる素敵なグラフィックレコーディング(ちなみこれ見ればブログ読む必要ないのでは......?)

f:id:norihiko-saito-1219:20191027003733j:plain
グラフィックレコーディング
f:id:norihiko-saito-1219:20191027003801p:plain
グラフィックレコーディング

いかがでしたでしょうか?(相変わらず長々とすみません)
アジャイルコーチ的にはなんてエラソーに書いてきましたが、自分自身もコーチ歴は約半年と「アジャイル(ひよ)コーチ」です。
いかにアジャイルひよこクラブがひよこたちにとって学びが多いように設計されたコミュニティであるかが少しでも伝わればとてもうれしいです。
(そして、数々の工夫に挑戦していった運営の方たちの努力はすさまじかったのではないかと想像します......)
もちろん、アジャイルひよこクラブはひよこ(ビギナー)だけではなくにわとり(エキスパート・ベテラン)にとってもまた学びがとても多い場所です。
これからも、積極的に参加していこうと思う筆者でした!
そして、ぜひアジャイルひよこ(ビギナー)の方は積極的に参加してみてください!! ぴよ。